第17章 東国で邂逅編

第143話 天文への改元

1532年(享禄5年)8月


- 京 山城(京都南部) 施薬不動院 -


 かくまった本願寺証如の身柄は、元就さまと毛利領で内政を司る内閣府に判断を仰いだ。無論「即座に一向宗の系列寺院である願証寺に送り届けたい」と意見具申したよ。で、返事はすぐに帰ってきた。俺の意見は圧倒的に支持された。

 まあ、檄文ひとつで家臣が不意をついて牙をむき近隣から数千数万の単位で兵が動員される集団のトップを懐に収めるという厄介事は避けたいだろう。利用すればいい?御冗談を・・・

「伊勢(三重北中部から愛知、岐阜の一部)には行きたくない」と駄々をこねる本願寺証如を船を使って、とっとと伊勢長島の願証寺に送り届ける。もう二度と会わないだろう絶対に。(フラグ)


 で、本願寺証如が願証寺に到着したという情報が畿内の一向宗門徒に広がり、少ない数の一向門徒が伊勢に向かったという。法華宗門徒からの迫害を恐れての事だ。今年の秋の収穫に多大な影響が出ると三好元長さんが頭を抱えていた。これもまた因果応報だと思う。

 千歯扱き欲しくない?安くするよ?って三好元長さんに話を振ったら、足踏式脱穀機のほうが欲しいと言われた。一応、足踏式脱穀機が売れるのは毛利領内のみだと言って断った。

 裏の理由は簡単。急激な領地の拡大で領内に行き渡ってない足踏式脱穀機を他所に売る余裕が無いのだ。他所に売ったのがバレたら不満のタネになるからね。

 結局、三好元長さんはそれなりの数の千歯扱きを買っていったよ。大坂本願寺に溜め込まれていた財宝がそこそこあったのか、結構な額の取り引きが成立して儲かった。


 で、本願寺証如が願証寺に到着するのと前後して尾張(愛知西部)の一向宗門徒が一斉蜂起した。たぶん長島を守るために伊勢と尾張の国境の城を落としておきたかったのだろう。

 しかし、尾張守護代である織田信秀によってすべて長島へと掃きだされてしまう。これで尾張は一段と安定化する。一方長島は、冬から春にかけて深刻な食料不足に襲われることになるだろう。


 さて、三好元長さんが再び摂津(兵庫南東部から大阪北中部)を掌握し畿内の一向宗が一掃されたことで窮地に陥った人物がいる。一向宗を三好元長さんにけしかけた次の管領と目されていた細川晴元くんだ。

 三好元長さんと一向宗の共倒れを狙ってギリギリまで一向宗の肩を持っていたことから、いままで仲が良かった朝倉氏が離れた。朝倉氏は加賀の一向一揆と長らく戦ってたから当然である。

 つぎに六角氏が離れた。当主である六角定頼といえば、史実では楽市を大体的に始めたしたり、家臣団を本拠地である観音寺城に集めたり、周囲の大名と婚姻で繋がったり、細川晴元くんと早くから支援したりとかなり革新的な思考をする御仁だ。

 その六角定頼に見限られた細川晴元くんは将軍である足利義晴さんに恥も外聞もなくすり寄った。これで三好元長さんと細川晴元くんの仲が永遠に決裂することが決定する。

 よかった。「晴元は俺がいないとダメなんだよ」とかいいだしたら「腐ってやがる。修正だ」案件だったよ。



 施薬不動院に、深刻そうな顔をした山科言継さんがやってきた。


「欧仙殿。お話が・・・主上が、なるべく早いうちに改元したいと仰せです」


「いいですよ。お金要るんでしょ。幾らいります?」


 山科言継さんの言葉に対し、俺はお気楽な声で返事をする。


「はあ?」


 山科言継さんの目が点になる。


「六郎(細川晴元)殿が公方さまとつるんで、主上に改元を進言したのでしょ?」


 俺の指摘に山科言継さんはがっくりと肩を落とす。


「で、毛利からはいくら毟ってこいと?」


「ご、5000貫文」


 山科言継さんが半笑いで額を告げる。三好元長さんに千歯扱きを売った金はあるけど、宗滴さんを支援して大和に遠征して散財しているから俺のポケットマネーではなんともならない。

 ただ、毛利としては但馬(兵庫北部)の生野銀山を手に入れて、ゴーレムを使った採掘と精錬を開始したから、無理な金額じゃないけどね。


「いいですよ。そうだ。臥茶七曜も動かしましょう」


「良いのですか?公方は・・・」


「ははぁ、なるほど。主上を動かし家臣である毛利に金を出させてその手柄は幕府が分捕るという腹積もりですか」


 俺の指摘に山科言継さんが苦笑いを浮かべる。いいのだろうか?そんなに解り易く顔色を変えて。ただ、山科言継さんが持ち込んだ案件は本国の元就さまと、内閣府と相談する時間は取れない。少しでも対応が遅れれば因縁を付けられる。即決しないといけない案件だ。朝廷との確執は避けたい。畝方元近として即断即決した責任は負おう・・・


 ほどなく主上から詔勅が発せられ、年号が享禄5年から天文元年へと改元された。また、1年後に紫宸殿にて主上の即位式を行う事も発表される。

 足利将軍からは、全国の大名に主上の即位式に参加するため上洛するようにと勅命も発せられる。自分の権力を復権させる気満々のようだ。

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