第144話甲斐への誘い

1532年(天文元年)9月


- 安芸(広島) 広島城 -


 元就さまういず内閣府に呼び出され、急遽、広島城に出仕した俺は朝廷行事に寄付することを独断で表明したことについてガッツリ怒られた。そして独断専行の罰は、6カ月の蟄居と減俸だった。

 副業が無ければ即死だったよ。まあ副業があるからこその減俸6カ月だともいえるけどね。無論、俺の立場でも規則を破ればこうなるという一罰百戒のためのモデルケースでもある。

 副業?私鋳銭の鋳造と粗銅精錬という錬金で出る金銀銅と日々得られるガチャ品の売買ですよ。現在人気なのは化成肥料。コモンなうえにトン単位で出る。馬糞、牛糞、鶏糞などの有機肥料とに混ぜると作物の収穫量が上がると評判だ。


「で、それがしに蟄居を命じたという事は、東ですか?それとも海外ですか?」


「東だな」


 外交のトップである口羽広良さんが口を開き、元就さまが大きく頷く。


「東ですか?」


「武田刑部少輔(光和)殿と武田大膳大夫(元光)殿からの請願でな。甲斐(山梨)の武田左京大夫(信虎)殿がお前に会いたいそうだ」


 元就さまが今回の依頼の種を明かす。武田光和くんは安芸(広島)武田氏の頭領で、武田元光さんは若狭(福井南部)武田氏の頭領。三人とも同じご先祖様を持つという共通点があって、今回のようなお願いの取っ掛かりぐらいの効力ぐらいはあるようだ。


「用件は?」


「甲斐で流行る謎の奇病の調査」


「奇病?」


 ワザとらしく聞き返すけど、日本住血吸虫症かな?


「うむ。どうやら手足が異様に痩せ細るのに腹部が大きく膨れて・・・そう。餓鬼のようになって死ぬそうだ」


 ビンゴである。戦国モノWeb小説では比較的上位に入る日本住血吸虫症だ。ちなみに日本住血吸虫症というのは、日本住血吸虫という病原微生物が血管内部に寄生して起こる病気の総称。

 ミヤイリガイという巻貝を中間宿主にして、たいていは、水に入った哺乳類の皮膚を食い破って体内に侵入。成虫になったて生殖産卵するという寄生虫なんだけど・・・

 一度に数多くの日本住血吸虫に寄生されると、ひとは肝硬変による黄疸や腹水を発症して、やがて死に至るという恐ろしい病だ。なにが厄介って、寄生するとき血管内に侵入するので、寄生されるといまの医学では駆除するための方法も薬も作ることができないということだ。


 ただ、防疫は簡単だ。中間宿主である「ミヤイリガイのいる水辺に近寄らない」。「ミヤイリガイのいる水辺に近寄るときは水を皮膚につけない」。そして「ミヤイリガイを根絶させる」だ。

 そして、このうちでもっともお勧めは、「ミヤイリガイを根絶させる」である。

 稲を耕作するなら水辺に近寄らないは不可能だし、水を皮膚につけないというのは、水浴びをするなという事になる。またミヤイリガイは水陸両生なので、水辺近くの濡れた草むらを素足で歩いただけで寄生される可能性があるというのが恐ろしい。近くに川が無くても炊事場にみっしり居たなんてこともあるという。恐ろしや・・・


 あ、そういえば日本住血吸虫症は、甲斐だけでなく、毛利領内の筑後(福岡南部)の筑後川沿岸や備後(広島東半分)の芦田川支流や高屋川流域でも大きな被害が出ているんだっけ?

 根絶するには、ミヤイリガイを食べる鴨を飼育したり、川をコンクリートで護岸して住処をなくしたり、川や沼の周辺の草を刈ったり石灰を撒いたりするのも良いんだよな・・・この二か所は権力を行使して撲滅のためのテストケースにしよう。


「御屋形さま。甲斐に赴く前に、毛利領内でも同じことが起きていないか調査する必要があります」


「ほう?それはどうしてだ?」


 俺の提言に元就さまはすっと目を細める。


「簡単な話です。異なる地域で同じ病気が発生していたら、共通点を探し出すことで原因を探ることが容易になります」


 原因は判っているから、共通点を探すことは楽なんだけど、撲滅するのにそれらしい理由はいるからね。


「甲斐には、毛利家家臣である畝方石見介元近ではなく施薬院欧仙として赴きましょう。ですが、お願いがあります」


「なんだ?」


「甲斐に赴くにあたり、それがしのふたりの嫁の同行も許可してください。あ、子供は置いていきますので」


 俺のお願いに元就さまと口羽広良さんの目が痛いが、ここは言わせて欲しい。いまでも京にいるときに、嫁を斡旋しようという人が多いんですよ。主に公卿の人ですが。

 関東の名門大名の縄張りに単独で足を踏み入れたら間違いなく性的に喰われますよ。

 あ、甲斐に行くなら、ついでに御伽衆の手練れを何人か連れて行って、病気の調査と称して関東圏に送り込むのも良いな。俺が直々に連れていく人材を無下にすることは出来まい。そうしよう。

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