第122話 大内義興逝く
1529年(享禄2年)12月上旬
- 土佐(高知) 山路城 -
「つまらん・・・」
土佐一条氏の拠点である中村御所の近くにある山路城に入った井原元師さんがぶーたれていた。
まあ、簡単に言うと京の一条氏との取り成しをして欲しいということ。よくある時間稼ぎだが、有効な手段でもあるが、ぶうーたれているのは
「まあ、本人は降伏すると言うのです。他の国人を配下に収めましょう」
「そうだな」
ということで島津貴久くんに兵3000を預け東へ。四国討伐のため伊予(愛媛)入りしていた元就さまの異母弟である北就勝さんに兵3000を預け海岸沿いに東へ。志道広門さんこと坂元貞さんに兵4000を預け四国山脈沿いに東へ進んでもらうことにする。
「井原さま。半蔵です。阿波、三好筑前守さまより使者が来ました」
襖の向こうから声がする。
「筑前守さまから?」
すっと襖があいて義息になった服部半蔵くんと三好元長さんによく似た男が姿を現す。
「阿波岩倉城主、三好孫七郎康長と申します。毛利さまと兄三好筑前より書状を預かって参りました」
そう言って三好康長さんは懐から書状を取り出す。まず井原元師さんが書状を読み、俺に渡してくれる。ざっと書状を見ると、三好が阿波(徳島)から土佐(高知)に侵攻してもいいか?という元長さんの問い合わせと、それを認める元就さまからの書状だった。
毛利領でない土佐を切り取るにいちいちお伺いを立てなくても問題が発生するとは思わないけど、この辺は律儀というか何というか・・・井原元師さんと俺は視線を合わせ、お互いに頷く。
「委細承知しました。孫七郎殿は阿波より土佐に攻めてこられる三好の総大将ですか?」
「はい。なのでここで一度顔合わせをと」
井原元師さんの質問に三好康長さんは頷く。
「では土佐のいずれの地で再び会いましょう」
井原元師さんと俺と三好康長さんは頭を下げた。
1530年(享禄3年)1月上旬
筑前で明貿易に携わっていた大内義隆くんが中村城にやって来た。
「この度はご愁傷様です」
「ありがとうございます。
俺のお悔やみの言葉に大内義隆くんは笑って受けてくれる。
大内義興さんが自宅で倒れたのは先月の終わりごろ。温かい部屋から寒い廊下に移動したときに倒れたというからたぶんヒートショックによる脳梗塞だと思う。手を尽くしたけど、三日ほど意識不明で力及ばず亡くなったという。
足利義尹を擁して京に上り、将軍の後見人として管領代となり、長門(山口北西部)、周防(山口南東部)、石見(島根西部)、安芸(広島)、筑前(福岡北西部)、豊前(福岡北東部から大分北部)、山城(京都南部)の7国の守護職を兼ねた戦国の巨人がこの世を去ったのである。
なぜ大内義隆くんが大内義興さんが亡くなったことを報告するために山路城に来たのか?
新年会の後ハンターと化した松と久に絞られて、松には次女沫姫。久には次男四五朗を授かることが出来たのよ。で、同じく子供が産まれた大内義隆くんの長女光ちゃんと俺の次男四五朗との婚約が成立したから。
大内義隆くんが、大内義興さんに孫の誕生と婚約を報告した席で大内義興さんが倒れて、死去。葬式を終えて、今日、土佐までやって来たのだ。禍福は糾える縄の如しとはよく言ったものである・・・
1530年(享禄3年)3月上旬
土佐一条氏と京の一条氏との仲を修復するのに並行して西から毛利氏、東から三好氏による土佐の切り取り合戦は順調に進んでいる。毛利氏は坂元貞さんが土佐吾川郡の吉良宣直を、島津貴久くんは土佐高岡郡の津野基高を、北就勝さんは土佐高岡郡の大平元国、土佐長岡郡の長宗我部国親を降して配下に収めていた。北就勝さんの侵攻速度が速いのは『赤城』の支援があったのが大きい。
一方、三好氏は三好康長さんが土佐安芸郡の安芸元泰、土佐香美郡の香宗我部親秀を降している。
「我が本山は毛利に降ります」
そう言って井原元師さんに頭を下げたのは土佐長岡郡の本山茂宗さん。領地を踏み荒らされる前に毛利に降るという事らしい。土佐物語という長宗我部氏の興隆記にも文武に優れ慈悲深く懐が広い傑物と紹介されている人物で、土佐七雄では最大の勢力を誇る小大名の頭領らしい。いい人材が手に入った。
「うむ。よろしく頼む。武官として功を成すか文官として名を成すか安芸(広島)にて考えられよ。まあ武官としての仕事は当分ないとは思うがの」
井原元師さんは笑う。まあ、現状として安芸、伊予、土佐の半分から西は毛利氏が、出雲(島根東部)、伯耆(鳥取西部)、備後(広島東部)、因幡(鳥取東部)は毛利氏の盟友である尼子氏が支配している。土佐一条家が降伏すれば争いは遠のくだろう。
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