第15章 閑話 東日本にバタフライ
尾張編
第123話 清洲騒乱
1530年(享禄3年)4月
- 土佐(高知) 山路城 -
「首領。半蔵です」
襖の向こうから声がする。
「尾張(愛知西部)で大きな動きが」
「何があった?」と聞き返すと服部半蔵くんは、説明してくれた。
- 尾張(愛知西部) -
尾張の守護守だった斯波義達は、1510年(永正7年)のころから駿河(静岡中部から北東部(大井川以東))の守護大名である今川氏親さんと遠江(静岡大井川以西)を巡って干戈を交えていた。
隣国駿河から攻めてくる今川氏と三河(愛知東部)を挟んで尾張から遠征してくる斯波氏。徐々に今川氏によって遠江の斯波領は削り取られていった。
1513年(永正10年)、斯波義達は失地を回復すべく遠江の国人大河内貞綱や井伊直平と図って遠江に遠征するが大河内貞綱や井伊直平は居城を落とされ大敗北。斯波義達の遠江遠征に反対していた尾張守護代の織田達定に叛かれるが、斯波義達はこれを撃退。織田達定は自刃した。これが原因で、尾張は織田一族による群雄割拠になったらしい。
続く1515年(永正12年)。斯波義達は大河内貞綱が己の居城である引馬城を奪還したのに合わせ再び遠江に遠征するが再び大敗北。しかも斯波義達自身も囚われ、遠江の支配を完全喪失。今川氏親さんが斯波義達が足利一族の同門であることから命を助ける代わりに出家させたとか、斯波義達が降伏する際に自ら髪を剃って助命嘆願したとか、とにかく命と引き換えに丸坊主になるという屈辱を味わったという。
で、命からがら尾張に戻ってきた斯波義達だけど織田氏の支持は完全に失い、僅か3歳の嫡男である斯波義統に家督を譲り斯波義敦と名を変え隠居する。家督を譲られた嫡男の斯波義統は、守護代である織田達勝によって完全な傀儡となった。
ちなみに織田達勝というのは、斯波義達に反旗を翻した織田達定の弟らしい。よくまあ粛清されなかったなぁと思ったけど、そもそも斯波氏は一度没落した後に織田氏によって祭り上げられたお飾り守護で、遠江遠征も出陣したのも自身の兵のみ。守護代を自刃させるほどの実力があったのなら、まず尾張を統一しろよと言いたいが後の祭りである。
- 斯波(義達)義敦 屋敷 -
- 三人称 -
夜も明けきらない前、斯波義敦の屋敷を、300余りの兵が取り囲んだ。
「いまこそ兄達定の仇を討て!」
闇の中、馬に乗った兜首が指揮棒を振り下ろすと攻撃の命を発した。たちまちのうちに屋敷に炎が上がり、刀を交える音と怒号が響く。
「斯波義敦、討ち取ったり!」
「先代(達定)さまの仇を討ったぞ」
兵士が口々に大声で叫び、斯波義敦の屋敷の前に斯波義敦の首を晒して逃げ去った。
- 清洲城 守護屋敷 -
「織田大和守殿ご謀反!」
「はあ?」
朝、斯波義統は家臣の報告を聞いて目を点にする。織田達勝は、2カ月ほど前に自分の代理として兵を率いて京に上洛したはずだが、その兵で父の屋敷を襲ったのだろうか?いや、既に自分を傀儡にして好き勝手している織田達勝が父を害する意味が判らない。
「大殿」
どたどたと足音を立て、鎧姿の若武者が部屋に飛び込んでくる。
「おお、弾正忠」
斯波義統は飛び込んで来た若武者が、織田達勝を支える清洲三奉行のうちの一家で、2年前に織田弾正忠家を継いだ織田信秀であることに気付いた。
この織田信秀という男。二十になるかどうかという若輩だが、画期的な農法で自領の米の収穫量を上げたばかりか、木曽川の河口にある港を整備し、津島神社とその門前を支配下に収めた現在売り出し中の若者である。
「先代さまが大和守殿の手勢に襲われたと聞き、兵300を率いて参りました」
「うむ。助力に感謝する。が、未だに信じられん」
「
織田信秀の言葉に斯波義統は頷く。そう。いくら何でも唐突すぎる。
「もしかすると我が殿を陥れる謀略やもしれません」
織田信秀の言葉に斯波義統は身を震わせる。
「ははっ。なに、
斯波義統が身を震わせるのを見て織田信秀は笑う。現在の尾張は、尾張守護代である織田達勝によって実質支配されている。特に近年、遠江を巡って争ってはいるが、同じ足利一門に連なる今川氏輝あたりが屁理屈をこねて介入してくる可能性がある。
「現在手は尽くしておりますが、どこに隠れたか、未だ賊の行方は解っておりません。大和守さまが戻るまで迂闊に動かない方が宜しいかと」
「そ、そうだな」
斯波義統は大分落ち着いたらしく笑った。
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