第121話 土佐侵攻

1529年(享禄2年)10月上旬


 -伊予(愛媛) 轟城 -


 河野氏を臣従させた毛利軍は伊予(愛媛)と讃岐(香川)の境にある轟城まで侵出していた。轟城の城主である信藤正親が毛利氏に降ることを良しとせず下野したので急いで接収に来たのだ。


「久しぶりだな、欧仙殿」


 そう言って手を差し出したのは三好元長さんだった。うむ。武器を持ってません。利き腕を預けますのアピールの事を覚えていてくれたようだ。


「ご無沙汰しております、筑前守さま。すっかり大丈夫のようですね?」


 そう。なんと言っても三好元長さん。目の下にクマがない。柳本賢治と松井宗信の両名と険悪な状態になったのを機にお暇を貰って四国に戻ってきたとは聞いたけど、すっかりリフレッシュしたようだ。


「宇都宮、西園寺、河野を降し、瞬く間に伊予を切り取られましたな。羨ましい」


 三好元長さんはケラケラと笑う。そう。宇都宮氏が臣従し、河野氏を力でねじ伏せたら、西園寺氏もまた臣従してきたのだ。西園寺氏は毛利氏に恩を売ってからの臣従なので査定はウハウハで宇都宮氏はトントン。河野氏は最初に臣従を申し込んできたが査定はかなりシオシオである。


「早いは正義。道路整備は必須ですぞ」


「うむ。それは調べさせた。毛利殿が安芸(広島)から陸路で長門(山口北西部)。そこから筑前(福岡北西部)、豊前(福岡北東部から大分北部)の移動速度は異常だと言わざるを得ない」


 三好元長さんは感嘆の息を吐く。まあ、安芸から長門の道路は最優先で整備させて、それに伴い輸送用として応仁の乱以降は廃れた牛車と馬車を復活させたんだよね。

 ただ、牛車には牛車に乗る権利というものが存在していて、従五位以上の官位が必要とか言われたけど、一度廃れたことを理由に廃止させた。

 まあ、導入するのは公卿が使うような立派な牛車ではなく、大八車もすっ飛ばしてリヤカーにした。

 車輪や車軸は金属製で車輪にはベアリングも実装済。タイヤがゴムでないのは不満だったけど、無い物ねだりしても仕方ないのでそこは我慢した。ゴーレムさまさまである。

 目下の課題は、500キロの荷物が運べるものが週に1台作れるかどうかだ。ああゴーレムが欲しい・・・


「で、筑前守さま。ご近所挨拶という訳でもないのでしょ?」


「ああ。毛利との相互の不可侵同盟の橋渡しを願いたい」


 三好元長さん。毛利氏の戦闘家臣団が伊予に移動を始めたのを掴んだのだろう。


「承りました」


 そう言って俺は小さく頭を下げた。



 - 伊予(愛媛) 地蔵ヶ嶽(大洲)城 -


 土佐一条氏は、応仁の乱で荒廃した京から所領だった土佐(高知)に下向した一条教房を始祖とする大名だ。土佐七雄と呼ばれる本山氏、吉良氏、安芸氏、津野氏、香宗我部氏、大平氏、長宗我部氏を束ねる盟主的地位にもあるらしい。

 まあ一条教房は関白まで務めたことのある人だから家格が違うんだろうね。その第2代頭領である一条房家は、河野討伐の際に高知から兵を送ってくれたのだけど、毛利氏に臣従することはなかった。

 腐っても公卿ということだろうか?と思ったら懇意にしている七人の国人頭領全員が臣従することに反対しているということらしい。土佐ってあれだ。長宗我部氏の兵農分離を全く行わない一領具足が有名だ。あの政策って長宗我部元親だっけ?親の長宗我部国親だったけ?とにかく自領に対する愛着がとても強いと考えていいだろう。


「京の本家筋も、土佐一条氏に余り好意的じゃないというのもややこしいな」


「ふう」と井原元師さんが息を吐く。伊予の西園寺氏は、元就さまに臣従を機に京に戻り、毛利氏の対朝廷対公卿の工作員に収まった。土佐一条氏もその一員になる事が期待されているのだが、土佐一条氏は京の本家とかなりのことで衝突しており、かえって敵を増やすかもしれないという懸念もあって、腰を重くさせているということだ。


「降伏勧告は悪手、でしょうな」


「まあ、他の国人に後詰めに来られても困るが、一度は行わないとダメだろう」


 俺の言葉に井原元師さんは苦笑いする。


「解りました。では地蔵ヶ嶽(大洲)城からは陸路。八幡浜からは海路で四万十川わたりがわを目指しましょう」


「おお、肥前(佐賀から長崎)、日向(宮崎)、薩摩(鹿児島西部)の城攻めで猛威を振るった噂の『三国崩し』の雄姿が見られるのですな」


 俺の言葉に、苦笑いから一転、井原元師さんの顔が笑顔になる。九州攻略に大活躍し、いまや宇夜弁うやつべ級には必ず1門は積んである火砲には元就さまから『三国崩し』という立派な名前を付けて貰っている。それが再び火を噴くことになるのだ。(多分)

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