第120話 道後地獄

1529年(享禄2年)7月


 湯築城を包囲して河野通存は降伏した。通存と湯築城の一室で謁見した際に、俺は伊予(愛媛)の東で反抗している国人を纏めて、改めて降伏するなら考えなくもないと言い渡して通存を追放するに留める。なぜか?湯築城の近くに沸いている温泉を堪能するための時間稼ぎをするためだ。(いいのか、それで)


「短い夢だったな、おい・・・」


 目の前で土下座に近い頭の下げ方をしている河野氏家臣団を見ながら、思わずそうつぶやいてしまった。まさか、1か月もしないうちに河野通直さんと村上康吉さんが通存と今回湯築城を攻めた正岡経貞、重見通種、平岡頼房、大野利直を含む12人の家臣を引き連れて降伏するとは思わなかったよ。まあ降伏した以上は仕方ない。


「皆さまの降伏の条件を改めてお伝えします」


・伊予は毛利の直轄とする。

・河野氏の家臣は毛利の直臣とする。領有する土地はこの冬に検地され、来年からはそのとき調べられた収入に応じた金銭を俸禄とする。

・河野氏家臣は一旦安芸に移動となる。

・今回反乱に加担した罪は問われないので首を差し出す必要は無い。

・この条件に不服があるなら立ち去っても構わない。


 河野氏家臣団の皆さんの間でざわつきが起きる。重見通種と大野利直のふたりは顔を真っ赤にして出ていった。彼らは条件が気に喰わないので野に下るということらしい。残った家臣は条件を飲むことを承諾し安芸(広島)に向かうことになった。そこで毛利のやり方を学んでもらい身の処し方を決めて貰うことにする。ついでに、安芸にいる文官団を派遣してもらうよう手紙をしたためる。

 文官が来るまでに湯殿を優先して造ろう・・・


1529年(享禄2年)9月


 湯築城の近くに沸いている温泉。ああ、道後温泉と言った方が通りがいいだろう。え?なに知らない?怪我をした白鷺が水溜りに浸かっているところを村人が見つけて調べてみたら温泉発見というお約束のあった、火山に因らない地熱だけで温められた温泉だよ。

 日本神話の時代には、急病になった少彦名命を治療するために大国主命が豊後(大分南部)から温泉を引いたとか、聖徳太子(厩戸皇子)が病気の療養のために滞在した。

 日本書紀には九州南部の熊襲を討伐した景行天皇や日本武尊の子供とされる足仲彦天皇。三韓征伐を成したと伝承が残る初の女帝神功皇后に最初の遣唐使を送った舒明天皇。大化の改新のときの天皇である斉明天皇。大化の改新を行なった天智天皇や日本書紀と古事記の編纂を行った天武天皇など何人もの皇族が行幸したという記述がある由緒正しい温泉だ。日本書紀を編纂した天武天皇の知人が多いのは気のせいじゃないと思う・・・


 降伏した河野氏を安芸に送り出したあと、すぐに湯築城の麓にある河野氏の屋敷を接収し、温泉整備の陣頭指揮を執るという名目で、温泉に入り浸った。

 木工ゴーレムを呼び寄せ、皇族が行幸してもいいよう温泉の湯殿をそれは立派なものに建て替えることにする。この縄張りを見よ!まるで〇と〇尋の世界ではないか!後に予算と縄張りを見た元就さまに城でも建てるのかと呆れられたが・・・

 併せて道後と三津浜港を結ぶ道路も整備する。


「ふう・・・」


 じゃばじゃばとお湯が湯船に落ちるのを見ながら、俺は深く息を吐く。一応、湯船につかって一息できるくらいの湯殿はできた。今日も一日頑張ったよ。

 と、いきなり目の前のお湯が盛り上がりざばーっと人が浮かんでくる。


「温泉名は、道後温泉でーす」


 湯船の中でむききいと、横向きになって胸を強調するサイド・チェストのポーズで島津貴久くんが叫ぶ。ええっと、もしかして温泉ウサギとかいうヤツ?かな?


「種別は、単純温泉でーす」


 湯船の中でむききいと、上腕二頭筋を見せるフロント・ダブル・バイセップス(ガッツポーズ?)のポーズで本郷剛士さんが叫ぶ。


「源泉温度は、42度から51度です」


 南郷氏親さんが両手を腰を当てるフロント・ラット・スプレッドというポーズで叫ぶ。筋肉なひとのポーズの基本ポーズだと思う。(個人的な感想です)


「効能は、胃腸病に皮膚病。神経痛にリューマチ。痛風それに貧血に効きます」


 西郷基純さんが背中を見せるガッツポーズ?バック・ダブル・バイセップスというポーズで叫ぶ。


「効果は保証しません」


 伊作又四郎くんが恥ずかしそうにぼそりと呟く


 島津兄弟&郷レンジャーによる筋肉の競演。別府とは違う意味の地獄の光景がそこにはあった・・・あ、東郷重朝さんは警護として外に、北郷美華ちゃんは部屋で大人しくしているよ。

あ、ボディビルのポージングには突っ込まないでね・・・はぁ

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