第100話 田手畷の戦い

1528年(大永8年)2月


「日向(宮崎)の伊東祐充殿の叔父、伊東祐武が福永祐炳を誅しました」


 愚谷軒日新斎さんの城に物資を運び込む任務をお願いしていた今川貫蔵さんが道中で拾ってきた情報を報告してきた。なんというか、九州人って外に内に常に敵を作って闘わなきゃならない戦闘種族なんだろうか?伊東氏の問題は、外祖父(母方の祖父)である福永祐炳の専権だった。

 もともと福永祐炳は伊東氏配下の足軽だった。それが福永祐炳の娘が先代の伊東尹祐に見初められて側室に入り、1510年(永正7年)に伊東祐充を懐妊した。

 これを喜んだ伊東尹祐は、生まれてくる子供が男なら既に生まれていた嫡男を廃嫡して子供を嫡男にしようと画策する。しかしそのことを知った家臣の長倉祐正と垂水但馬守に諫められる。

 それが原因で両者の間に対立が生まれ、稲津重頼の讒言もあり、長倉祐正と垂水但馬守は伊東尹祐に対し反乱を起こすことになるのだが、これは伊東尹祐によって粛清されてしまう。

 当然のことだけど、家臣の間で不満が高まった。この家臣の不満を逸らすため伊東尹祐が行ったのが近隣の敵対国人への攻撃だ。日向南部の島津氏や北郷氏と争い、伊東氏の版図を広げる。

 誤算があったとしたら、この抗争の最中1523年(大永3年)に伊東尹祐が1カ月後には伊東尹祐の弟伊東祐梁が陣中で没したことだろう。伊東祐充はわずか13歳で伊東氏の頭領に福永祐炳が補佐役になる。


「なんというか、すごいな伊東祐充。まるでラノベじゃないか」


 伊東祐充の生い立ちに、俺は驚愕する。いや、史実があってのラノベの設定か。ただ史実と違うのは、俺の介入で伊東氏の矛と福永祐炳の目が、北日向に向かったことで内部の不満に目を向けられなかったことだ。

 伊東祐充の叔父である伊東祐武が、譜代の家臣である落合兼由、稲津重由、右松祐宣、川崎良代らと結託し、福永祐炳の館を急襲。福永祐炳は三人の子供ともども誅殺されたそうだ。

 ただその直後に伊東氏頭領である伊東祐充によって伊東祐武は討たれたそうだが・・・


「これで日向は落ち着くかな?」


「ま、無理でしょうな。自分の足元が侵食されている大友がこの機を逃すとは思えませんし、北郷氏も黙って見てはいないでしょう」


 俺の問いに今川貫蔵さんは即座に答えを返して来る。まあそうなるか・・・



1528年(大永8年)3月。


- 三人称 -


 少し前に肥前(佐賀から長崎)を統一した少弐資元が龍造寺家兼を総大将に兵4000をもって筑前に侵攻した。これを知った大内義隆はただちに家臣の杉興運に兵1500を与えて後詰めとし前線送り出す。そして自らは兵1000を率いて筑後に向かい、筑後の大内派の国人を糾合。兵2000を持って肥前へと侵入する。

 少弐が兵を4000も出したのなら本拠地はがら空きだと推測し、斥候を放って調べ、確証を得ての行動である。敵より早く正確に情報を得て敵の弱い所を痛撃する。大内義隆が毛利相手に戦い敗北し、その後に師事した畝方元近から教わった戦訓である。


「攻撃開始!」


 大内義隆の命令の下、勢福寺城に攻勢がかけられる。今回の作戦は、本拠地の奇襲を知った龍造寺家兼が前線から戻ってくる前に少弐資元の城を落とすことだ。


「応戦しろ矢を放て」


 守将の馬場頼周が迎撃を指示するが、斜めにかざされた竹束に弾かれ効果を発揮できない。あっという間に大内兵が城の麓に取りつく。取りついてからの大内兵の浸食は早かった。たちまちのうちに城門が開かれ城内に大内兵がなだれ込んでいく。

 やがて勢福寺城からは火の手が上がる。少弐資元は、命からがら馬場頼周ら十数人の兵と共に城を脱出し西へと落ち延びていった。


「では、これより敵本隊を叩く」


 勢福寺城を落とした大内義隆は東へと引き返し、救援のために戻ってきた龍造寺家兼と激突。後詰めに来ていた杉興運と挟撃する形で龍造寺家兼を撃破する。

 龍造寺家兼もまた命からがら西へと落ち延びていくのだが、大内義隆は龍造寺家兼が大内と示し合わせてわざと敗走したのだという噂を撒き散らす。この噂が元となり、少弐資元と龍造寺家兼の間で対立が起きることになる。

 名門大内の復活を内外に知らしめることになった。

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