第99話九州島津氏の混乱
1527年(大永7年)11月
-石見(島根西部) 矢滝城 -
「拙者、伊作三郎左衛門尉が家臣で長井善左衛門と申します」
そういって長井善左衛門さんは懐から2通の手紙を出して頭を下げると、隣りに座っているお子さまも頭を下げる。手紙の差出人は、一通は元就さまから一通は愚谷軒日新斎と書いてある。えっと、誰だか判るような気がするけど、どなたさま?
仕方がないので先に元就さまの手紙に目を通す・・・任せたの3文字。無駄すぎるが仕方ない。で、愚谷軒日新斎さんの手紙を読む。伊作という名乗りで予想は出来たけど伊作忠良さんだった。
なんでも島津宗家の家督争いに、頭領の島津忠兼さんに介入を頼まれて、嫡男である伊作三郎左衛門尉くんを宗家の養嗣子に入れたという。養嗣子というのは、跡継ぎのための養子って意味ね。
伊作三郎左衛門尉くんは元服して島津貴久を名乗り、薩摩(鹿児島西部)守護職も譲渡されて、それを確認した島津忠良さんは出家して愚谷軒日新斎と名乗って目出度し目出度し・・・とはいかなかったそうだ。
家督争いのもう片方の当事者である島津実久が、この家督と守護職譲渡に、武力を背景に猛烈に抗議。しかも家督と守護職を譲渡したはずの島津忠兼さんも変心して悔返を言い出した。悔返というのは、贈与したり寄進したものを元の所有者またはその子孫が、贈与したり寄進したものを取り戻すための権利らしい。無茶苦茶だな。
島津実久は、島津忠兼さんに島津貴久くんとの養子縁組の解消を迫った一方で武力による愚谷軒日新斎さんと島津貴久くんの排除も試みた。配下であった伊地知重貞、島津昌久が挙兵し、あっというまに伊作氏所領の城は奪われ、清水城にいた島津貴久くんは死を覚悟したそうだ。
しかし、園田実明さんの説得もあり島津貴久くんは清水城を脱出して逃げ延びる。長井善左衛門さんは、その逃亡劇に付き添った8人の忠臣のひとりなのだそうだ。
まあ簡単に纏めると、島津宗家の家督争いに巻き込まれた分家の愚谷軒日新斎さん。宗家を嫡男に継がせたけど、途中で梯子を外され拠点もほとんど失いましたと・・・
「で、日新斎殿は我らに援助をして欲しいと?」
「はっ」
長井善左衛門さんが頭を下げる。まあ愚谷軒日新斎さんには、以前日向まで来てもらった上で島津宗家を煽って貰った借りがある。あのときは愚谷軒日新斎さんの腰が軽くて非常に助かりました。
「で、隣りのお子さまは?」
「伊作又四郎と申します」
伊作又四郎くんが頭を下げる。伊作又四郎くん愚谷軒日新斎さんの次男で、御年8歳。彼がこの場にいるのは、どうやら直系男子の避難と援助物資の質草らしい。流石と言えば流石である。
「証文を起こしましょう。名は日新斎殿と又四郎殿。まずは500貫文。金子と食料を半々。利息は年に5貫文だな」
後ろで控えている小姓の息を飲む声が聞こえるけど、ここ2年の毛利領の振興を陣頭で指揮した俺に資金の隙は無い。え?金利が安くないかって?いいんだよ。まあ、戦国時代は無ければ奪うが基本で、武士を相手に貸金業なんて意味はないんだけどね。この辺は建前だろうけど質草を送ってきた愚谷軒日新斎さんに応える。証文を書いて利息を付けるのは、この支援が施しではないというアピール。当然だけど近隣の国人相手ならこんなことはしない。
- ☆ - ☆ - ☆ -
「「「お楽しみたーいむ」」」
司箭院興仙さんが怪しい踊りを踊っている。その横では松と久が期待を込めためでガチャ箱を見ている。司箭院興仙さんに続き松と久にもガチャ箱の存在を打ち明けた結果である。いつまでも隠すほうが家庭に波風が立つという司箭院興仙さんの大人なアドバイスを受けた結果だけどね。
今日のボタン押し当番の興仙さんがガチャ箱の前に座る。松や久はじっとガチャ箱を睨む。
「「「何が出るかな、何が出るかな、ちゃらぁららら、ららららぁ、ぽちっとな」」」
三人が怪しいリズムを口ずさみながら、興仙さんがガチャ箱のボタンを押す。
がしゃん
「ちゃららちゃちゃちゃ~!C紙おむつ20組・・・げふ!」
司箭院興仙さんが膝から崩れ落ち、松と久が手を叩いて喜んだ。ふたりは高レーティングより実用の高い方が嬉しい。最近のガチャ箱は子供が生まれたのを忖度してか、育児セット・・・特に今回のような紙おむつだとか粉ミルクが良く出るのだ。まあ粉ミルクは育児用と食用の2種類が出ているから良いんだけどね。
「のう欧仙。レーティングを上げまくってもガチャがコモン連発とか納得いかんのだが」
目から滂沱のごとく涙を流している司箭院興仙さん。そんなことを言っても知らんがな。ちなみにこのところの司箭院興仙さんの成績はC粉ミルク、C紙おむつ、R産着(無駄に立派な絹製だった)、そして今回のC紙おむつだ。ドンマイ司箭院興仙さん。揺り戻しは必ず来るさ。保証はしないけど。
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