第10章 管領細川。祇園精舎の鐘の音編

第91話 京に舞う戦塵 ~事前のおさらい~

 九州のごたごたが一応収まったところで、近畿から西日本の勢力分布のおさらいをしてみたいと思う。


 九州は既に述べたように、筑前(福岡北西部)、豊前(福岡北東部から大分北部)が大内氏。肥前(佐賀から長崎)が少弐氏。壱岐(対馬)は大内派で宗像神社の大宮司である宗氏。

 豊後(大分南部)が大友氏で日向(宮崎)の大半が伊東氏。筑後(福岡南部)が大内派国人と大友派国人が割拠し、肥後(熊本)と薩摩(鹿児島西部)と大隅(鹿児島東部)を島津氏とそれぞれが領有している。琉球(沖縄)は明の保護下にある独立した国なのでここでは割愛。


 友好関係については(良)友好-親密-普通-険悪-絶交 (悪)と見て貰った上で少弐氏と大内氏が絶交。大内氏と大友氏が険悪。大友氏と伊東氏が険悪で大友氏と島津氏はちょっと親密。伊東氏と島津氏が絶交からやや持ち直し。あとは普通といったところだろうか?


 中国地方は長門(山口北西部)、周防(山口南東部)が毛利氏。石見(島根西部)と安芸(広島)が毛利氏と尼子氏の混在。出雲(島根東部)と伯耆(鳥取西部)、備後(広島東部)の一部を尼子氏。

 因幡(鳥取東部)、但馬(兵庫北部)と丹後(京都北部)を山名氏(ただし本家と分家ですでに別家と言って良い)。若狭(福井南部)は若狭武田氏(安芸武田氏の本家筋にあたる)で備後、備中(岡山西部)、備前(岡山南東部)、美作(岡山北東部)は未だ国人が割拠しているけど、備後は山内氏、備中は三村氏、備前と美作は浦上氏が一歩リード。

 播磨(兵庫南西部)は赤松氏。丹波(兵庫東部から京都西部)は今回、高国さんに反旗を翻した波多野氏。摂津(兵庫南東部から大阪北中部)は一応細川(高)氏が領有している。


 友好関係は毛利氏と尼子氏が友好。毛利氏と大内氏が絶交よりの険悪で毛利氏と少弐氏、伊東氏、島津氏、若狭武田氏、三好氏が親密に少し寄った普通で毛利氏と河野氏が親密。尼子氏と山内氏が険悪で尼子氏と山名氏が絶交。尼子氏と三村氏、浦上氏、三好氏が親密寄りの普通。山名氏、波多野氏、三村氏、浦上氏、赤松氏、武田氏の友好関係は今のところ探ってはいない。

 ああ、細川(高)氏と波多野氏。細川(高)氏と細川(晴)氏・三好氏が絶交で波多野氏と細川(晴)氏・三好氏が親密というのは調べるまでもない状態か。


 そして四国は伊予(愛媛)を河野氏、西園寺氏、宇都宮氏が分割し、淡路(淡路島)、讃岐(香川)、阿波(徳島)は高国さんと争っている細川(晴)氏と三好氏連合。土佐(高知)は国人か割拠していて団栗の背比べ状態だ。


 友好関係は、河野氏と三好氏が親密寄りの普通。河野氏と西園寺氏と宇都宮氏は表面上は親密な関係と言ったところ。西園寺氏と土佐の一条氏が公卿繋がりで親密寄りの普通である。



1526年(大永6年)12月


- 石見 矢滝城屋敷 -


「管領細川高国に対し丹波の国人である波多野稙通、柳本賢治が反旗を翻しました。兵はおよそ3000」


 服部半蔵さんが報告を上げてきた。今年の7月。管領に返り咲いた細川高国さんが、部下の一人である香西元盛を三好元長さんと内通しているという進言を従弟である細川尹賢から聞いて自害させたのが原因。

 香西元盛という男は丹波の波多野稙通と柳本賢治の弟で、細川高国さんの命令で各地を転戦して力でのし上がった脳筋さん。

 細川高国さんの命令で、跡継ぎの絶えた讃岐の有力国人である香西氏の跡を継ぐぐらい信用されていたハズなのに討たれた。

 四国で細川高国さんに反抗している三好元長さんと三好元長さんが擁する細川晴元くんは、細川高国さんにとっては不倶戴天の敵だから、香西元盛以上に信用している従弟のウソを簡単に信じてしまったらしい。

 細川尹賢が香西元盛を排除したのは、まあラノベでも定番の貴族おじゃる武士と脳筋武士の対立なんだろうね。で、いわれのない罪で弟を自害に追い込まれた二人の兄貴が激怒して、このたび細川高国さんに反旗を翻したと。


「更にこの挙兵に応じて四国の細川晴元と三好元長が香西の兵と共に挙兵しました。兵は4000」


 三好元長さん頑張ったらしい。お家断絶の危機にある香西の兵を巻き込んでの挙兵だ。


「どうしましょう」


「どうもできない。予定通りに施薬不動院の開山式には出向く」


「御意。伊賀(三重県西部)の服部に動員をかけておきます」


「手間をかけるな」


 服部半蔵さんは嬉しそうな顔をして頷いた。



- 安芸 吉田郡山城 -


「さて元近。京に赴いたついでだが働きかけてもらいたいことがある」


「何でございましょう、義父上」


 元就さまの問いかけに、俺は真面目な顔で応える。


「・・・・・・・・・・」


「・・・・・・」


「・・・」


「無いな。何というか、未だに背中が物凄くむず痒い」


 元就さまが顔を物凄く顰めながら苦笑いをする。だが、既に尼子国久さんを義父上呼びして戦場を共に駆け回った俺に隙は無い。


「まあ追々慣れるしかないか・・・それでな、元近。京で西園寺や土佐一条の所縁の者と接触して欲しいのだ」


「三好筑前守殿から何かありましたか?」


 俺の問いに元就さまは目を細める。


「いかにも。三好筑前守殿は軍を率いて本州に攻め込む。その為の助力を河野と村上水軍に頼み、河野と自分の後顧の憂いを絶っておきたいらしい」


「なるほどでありますな。全力を尽くしましょう」


 元就さまの説明に俺は大きく頭を下げるのであった。

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