第92話どこぞの光の巨人の物語ですか?

1527年(大永7年)1月


 - 京 山城(京都南部) 施薬不動院 -


「これが施薬不動院か・・・」


 このたび建てられた施薬不動院は、建仁寺から更に東北にあたる山の中腹に建てられている。近くには八坂神社や知恩院があって、山の中とはいえよく場所が空いていたなぁ・・・

 今のところ不動明王立像がある伽藍堂(本堂)と東側に僧侶が住む僧坊が一棟あるだけだけど、木工ゴーレムがこっそり関わっているからか、伽藍堂がデカい。

 明らかに不動明王像の身長3メートルを人間のサイズとして、それに見合うサイズの建物にしてる。開山式は信者も含め2000人もの人が集まり壮大に行われるのであった。


「おお欧仙」


「欧仙殿久しいの」


「ご無沙汰しております」


 開山式も終わり、俺の京滞在のときの宿舎になる予定の僧坊に司箭院興仙さんとこの寺の三条西実隆さんこと逍遙院さんと絵師の狩野元信さんが集まっていた。逍遙院さんは施薬不動院創始にあたっての資金調達の音頭を取ってくれた発起人、いわゆる大檀那で、元信さんは僧房の襖絵とかを手掛けてくれた人だ。


「欧仙よこれを監修してくれんかの」


 そう言って司箭院興仙さんが一冊の本を渡してくれる。


 1524年(大永4年)。ここ山城の地に疱瘡神(天然痘)が現れた。

・・・京の街を破壊しながら進む、家の屋根より高い(おそらく3メートルぐらい)悪役レスラーっぽい疱瘡神。

 疱瘡神(天然痘)が息を吐くと人々の身体中に赤い斑点が浮かび死に絶えていく。

・・・赤い点はカサブタなんだけどカサブタに見えない。なにかこう禍々しいっていうか溶けている人もいるぞ。

 ときの後柏原天皇は般若心経を書き上げ仏に奉じ疱瘡神の退散を願う。

・・・天皇って書いてあるけど描いてあるのは典型的な公卿の男性で写経している。

 その願いを薬師如来が聞き入れ、この地に五大明王の一人である不動明王を遣わした。

・・・上半身が大きくかかれた薬師如来と天から降臨する不動明王。

 不動明王は施薬院欧仙の姿を借り。

・・・俺らしい男に重なるように描かれる不動明王。

 疱瘡神を相手に獅子奮迅の戦いを繰り広げる。

・・・俺と疱瘡神が素手で戦う絵が3枚ぐらい、両者とも段々ボロボロになっている。というか絵の一枚はご本尊の不動明王と疱瘡神のポーズと同じだ。

 ついに清浄なる炎を持って疱瘡神を成敗し

・・・俺らしい男が手を十字にして疱瘡神に向かって火を放っている。なぜ腕を十字に?

 人々を救ったとさ目出度し目出度し。

・・・さっそうと空を飛んで天に帰る俺。見送るように涙を流す公卿(たぶん後柏原天皇)と庶民らしい男女に子供(ともに上半身)。構図がなんかキン〇マンっぽい。


・・・というかなんぞこの光の巨人風な物語は。


「ええっと、もしかして、この寺の由来を面白おかしく解り易くした・・・絵本?」


「おう。欧仙が愛宕司箭院学舎で文字を教えるために配布してる本の真似じゃな」


 司箭院興仙さんがお腹を抱えてゲラゲラと笑っている。たぶん面白おかしくがメインだろう。逍遙院さんと狩野元信さんも物凄く良い顔だ。


「不動明王のおわします伽藍堂の壁面にも同じものが、こちらの文は平仮名のみのこの絵本とは違い、全部漢文で書かれております」


 ドヤ顔で説明してくれる狩野元信さん。でも、そんな絵あったっけ?って聞いたら、狩野元信さん完成に納得がいかなくて、今は覆いで隠しているらしい。


「しかし前もって絵本で内容を知れば伽藍の壁画も読めるようになる。考えたものよの」


 なんか逍遙院さんが物凄い勘違いを・・・いや意図していることを理解してくれるのは嬉しいけど。ちなみに愛宕司箭院学舎では舞台を日本にしたシンデレラみたいな話と桃太郎みたいな話と浦島太郎みたいな話と坂田金時金の幼少期の話との絵本があって文字を習う教科書になっている。金太郎だけ坂田金時の幼少期の話なのは頼光四天王の神楽にリンクさせるためだ。


「元信よ。この手は源氏物語を広めるのに使えんか?」


 逍遙院さんが狩野元信さんに提案する。さすが、宗祇や肖柏といったこの時代の源氏物語に詳しい人たちと喧々諤々の論争を繰り広げて、それまでの源氏物語系図を刷新させた源氏物語大好きお爺さんである。

 というか逍遙院さんと狩野元信さんがここにいる理由って、この方式で源氏物語を広げていいかって俺に聞くためなのかな?


「それは良い話です。それがしも支援いたしますぞ」


 寺院の大旦那である逍遙院さんに恩を返すためにも俺は支援することも約束する。あとで狩野元信さんには漫画の概念も教えておこう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る