第90話豊後上原館の乱(後編)

 後に「上原館の乱」と呼ばれる小さな騒動の結末だけど、首謀者である大内高弘は吉岡長増さんに斬られて即死。大内高弘の手勢によって大友兵が10人と大友兵によって大内高弘の手勢が3人死亡。事件後に高弘の手勢と大友兵の内通者が17人ほど刑死。

 顔面を血に染めていた大友義鑑さんの額にはたぶん一生消えないであろう三日月上の傷が残り、腕を斬られた大内義興さんは、手首の腱を大きく損傷したため二度と刀が握れない身体になった。

 また、外交のため訪れていた同盟関係にある他国の領主を自国の家臣が切り付けたという不祥事は大友の威信を大きく傷つけ、大友に従属していた豊後周辺の国人衆が騒がしくなっている。

 当然のことだけど、大内氏との仲は親密から一気に最悪に近い険悪な状態になった。いつ同盟関係を解消してもおかしくないそうだ。


「此度は助かった。礼を言うぞ、すけきよ殿。これは此度の護衛の報酬である」


 そういって大内義興さんがかなり友好的な口調で拳ほどの砂金の乗った盆を俺たちの前に差し出して来る。俺と今川貫蔵さんは恭しくそれを受けとる。

 結局、俺と今川貫蔵さんは筑前の義興さんの城まで護衛という形で同行してしまった。道中で幾度となく義興さんから仕官のお誘いを受けたけど、断ったよ。


「それと、これを渡しておく。家臣として仕える気が起きたのなら使ってくれ」


 そういって大内義興さんは、大内氏の家紋いわゆる大内花菱の紋が入った薄茶を入れる器・・・いわゆる棗を懐から出して俺に渡す。さすが戦国時代西の最強文化人である。俺の目には印籠に見えるでござる。


「ありがたく」


 恭しく(2度目)家紋入りの棗を受け取った。



 - 筑前(福岡北西部)博多の萩屋文左衛門が所有する屋敷 -


「報告いたします」


 今川貫蔵さん世鬼煙蔵さん服部半蔵さんがそろって頭を下げる。行うのは周辺国の状況の報告会である。まず毛利領の東にいる尼子経久さん。伯耆(鳥取西部)の支配は完了して、東の隣国である因幡(鳥取東部)の守護である山名誠通の家臣や国人の調略に掛かっているらしい。

 また、山名澄之の息子である山名豊興、山名豊隆を匿う本拠地の出雲(島根東部)の南にある備後(広島東半分)の山内直通には圧力を、出雲の南東に位置する備中(岡山西部)の三村宗親とその東の隣国美作(岡山北東部)の浦上村宗とは友好関係を築いているという。おそらく来年の春前には備後に遠征するのではないか?ということだ。

 つぎに元就さま。伊予(愛媛)の河野氏に硬軟合わせた外交を展開した成果が表れ、河野氏が従属するところまで来ているという。まあ、攻めるには兵を輸送する船が足りないよねって話。備後の国人から、こちらと誼を結びたいと接触を図っているらしい。


 そして九州の状況。

 九州の最北である筑前(福岡北西部)とその南東にある豊前(福岡北東部から大分北部)を支配する大内義興さん。今回の「上原館の乱」で豊後(大分南部)の大友義鑑さんとの仲が険悪になったのは既に言ったけど、お陰で筑後(福岡南部)の国人衆が親大内派になびいているらしい。

 筑前の西にある肥前の少弐資元さんは大内義興さんと一時的に和議を結んだらしい。家臣である龍造寺家兼さんには大内義興さんの筑前を脅かすように頼んだんだけどなぁ・・・

 龍造寺家兼さんは、性急に筑後を攻めるより、肥前の統一を勧めたらしい。龍造寺家兼さんが先頭となって西へと版図を広げているようだ。

 日向(宮崎)の伊東尹祐さんは島津氏が肥後に侵出して、南日向が脅かされない事を確認して北日向の土持氏を攻め滅ぼしたらしい。現在豊後の大友義鑑さんと国境を挟んで睨みあってるらしい。大友義鑑さんは大内高弘のせいで散々だな。

 肥後(熊本)は最南端の薩摩(鹿児島西部)とその東隣りの大隅(鹿児島東部)を領する島津氏がほぼ制圧したそうだ。ただ、手を広げ過ぎたことで島津氏内部で家督争いが起きそうな気配があるらしい。

 というか、史実でも島津実久さんが親族相手に無双するんだよね。伊作忠良さんとは知己を得ているのでガンガン支援したいところだ。


 ああっと、近隣国の話とは大きくかけ離れるけど、京の、痘瘡で亡くなった人を焼いた場所が聖地化しているって話を以前したかと思うけど、施薬不動院という立派なお寺が建ったそうだ。

 司箭院興仙さんから、年が明けたら開山式をするから京に出頭するように要請がきたよ・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る