第61話宇夜弁ぱわーあっぷ!
1524年(大永4年)6月
熊谷元直さんの嫡男である千代寿丸くんが安芸(広島)三入高松城で元服して熊谷貞直と名を改めたそうだ。俺が三入高松城を占領したときに転がして足で踏んずけた少年だよな。懐かしい。
元就さまが吉田郡山城に移動したとき、多治比猿掛城から三入高松城に移動して坂元貞さんの元で修行していたらしい。で、その貞直くん。元服ついでに初陣デビューも済ませたらしい。
佐東銀山城の麓に布陣した大内軍の問田興之、杉興相が銀山城に朝駆けを仕掛けようとしたところを見破り、香川吉景さんと坂元貞さんとともに撃退したそうだ。
その際、敵の首級をひとつ挙げたそうだ。あとで刀を一振り贈っておこう。喜んでくれるといいけど。
-中国大陸沿岸 某海域 -
「親分。見分終りましたぜ」
「ああ、面白いもんは有ったか?」
「生糸、織物ですな」
何をやってるかって?明との密貿易だよ。こちらからは銀、扇子、刀剣、屏風。明からは生糸、織物。あとは
今回の大内氏の侵攻で、早急に
「やっぱ明。半端ないな」
明の商人が持ってきた大型連弩砲は、槍でも撃ちだすんじゃないかって大きさがあった。馬鹿。まさに大物大好き馬鹿である。
「その大型連弩砲を大金出して買う方も馬鹿アルね」
今回の商売相手がかつかつと甲板を鳴らしながらやってきた。
やってきたのは詰襟で深いスリットが入った・・・いわゆるチャイナ服を着た、顔に大の字の黥が入ったドジョウ髭のゴツイオッサン。
まあチャイナ服って、もともとは北方騎馬民族の戦闘服。大きく横に開いたスリットは騎乗する際に脚を横に出すためのモノなんだよね。
あ、オッサンはちゃんとズボンを穿いてるよ。そもそも丈の長い上着なんだし・・・だし・・・
「つーか、日本語上手いですね
「黥があると相手は選べないアルね」
「通訳を介してたらだま、いや、信頼は得られないアルね」
ああ、
「玉さん。大型連弩砲の設置にきたヨ」
続いて中華な飯店のマスコットみたいな、糸目の娘がやってきた。でも金髪!褐色肌!!しかもまんまる眼鏡をかけている!!!じつにあざとい。
でもなんか(主に上半身の体型的に)久しぶりに見る妙齢の女性だ。
「畝方さん。この娘が大型連弩砲の製作者で
「はあいウネカタ・サン。これからよろしくヨ」
え、ちょっとまて。いまなんて言った?
月姫さんが大型連弩砲の設置に向って走っていくのを見送った後、俺と玉さんは額をガツンと突き合わせる。
「どういうこと?」
「こういうことアル」
と、玉さん
一族を1200年ほど遡ると、この大陸では珍しい二文字姓の政治家に嫁いだという才女が出てくるとか・・・
いや、それ明らかに「いわく、ほかにすることはないのですか?」の人の奥さんの設定をパクってるよね?
たぶんアラビア半島あたりから海のシルクロードを通って中国に流れてきた人間だろう。海のシルクロード自体は紀元前3世紀からあったし・・・
ただ確かなことは、彼女が海上利用制限政策明を採っているいまの明にあっては居てはならない異分子だと推測できることだ。
「頼むよ畝方さん。おたくらが起こした寧波の乱の影響で最近厳しいアルね」
玉さん。俺が考えてることを読んだらしい。これ以上は聞くなの圧力をかけてくる。
月姫さん奴隷かと思ったけど、もしかしたらそれなりに地位のある人かもしれない。
「ふつうにこき使いますし、貸しですからね?」
「彼女が大型連弩砲を設計した技術者なのは間違いないアル。今後ともご贔屓アル」
俺と玉さんは笑顔でグータッチ(俺が教えた)した。
-☆-
一基だけだが艦尾に大型弩砲が装着された。回転する台座の上に据えて、進行方向の反対側、270度を攻撃範囲に収めることに成功する。
艦首には
「親分。左前方に小早が3艘」
1番マストに登っていた船員から標的発見の報告が入る。
「うむ。海賊旗を掲げろ」
「アイ!」
一番マストの天辺に白い髑髏を染め抜いた黒地の旗が風になびく。気分が高揚するわ・・・
「あれはなんス?」
「これからお前をヤリに行くという意思表明かな」
月姫の質問にあっさりとした口調で答える。
「すれ違いざまに弩投射。追い抜いたあと後部大型連弩砲で攻撃だ」
「アイ」
命令は直ちに実行された。戦果?ああ、大型連弩砲。あれはヤバいな。ヒ〇ドルブのバリスタが可愛く見えた。
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