第62話佐東銀山城の戦い 対陣

1524年(大永4年)7月


「お前だけでも来い」


 明から帰って来て早々に、尼子経久さんに拉致られた。安芸(広島)に兵5000の援軍を差し向ける途中、補給のために矢滝城に立ち寄ったところ俺を見つけたらしい。「迷惑な」と言えないのが辛い・・・


 琵琶甲城から五龍城、五龍城から吉田郡山城までの道は整備されていないが、矢滝城から三入高松城までの間の道はWeb小説定番のマカダム舗装で整備しているので行進速度がとても速い。

 念のためマカダム舗装を解説しておくと、粒径のそろった尖った砕石を敷き詰めて圧し固め、細かい砕石で隙間を埋めて圧し固めることで道を均す舗装方法。

 最初は切り出した石をゴーレムが落として押し固めていたけど、巨大な石のローラーを加工できるようになると牛に引かせて均すようになった。なお、「重いコンダラ」という間違った名前を定着させているのはここだけの話である。

 道中、道を整備することは敵に利すると経久さんは主張したけど、後方の味方を素早く前線に派遣できるし、そもそも敵地にまで道を伸ばすつもりはないと言ったら納得してくれたよ。牛車に食料と予備の武器を満載して行軍スピードを早めたとはいえ、通常よりも3日ほど早く三入高松城に着くころには、宗旨替えして工事依頼を真剣に検討してた。

 追伸・・・日向馬をものすごく要求された。三郎四郎くんが元服したときにプレゼントをすると言って一度は納得させる・・・多分石見に戻る際にくれくれを発症させるだろう・・・


 経久さんが三入高松城に入るのと時を同じくして三入高松城に親尼子派の安芸の国人である平賀興貞さん・三吉致高さん・宮光信さんが着陣。戦力が8000にまで増えた。で、この情報を受けた銀山城の武田光和さんが、無謀にも籠城していた3000人の兵とともに城を出た。


1524年(大永4年)7月3日早朝


 夜がまだ明けきらない頃・・・ぎ、ぎ、ぎ、と銀山城の門が開き、鎧を着ているのに見事な逆三角形の体形をしたゴリマッチョが姿を現す。


「大内周防介なんぼのもんじゃ!」


 ゴリマッチョが天高く拳を突き上げる。


「太郎さまに続けぇ!」


「「「「「「おう」」」」」」


 ゴリマッチョの周りにいた中ゴリマッチョが叫ぶ。


「なんですかね、あれ・・・」


 こっそり銀山城に偵察にきていた俺と今川貫蔵さんはお互いの顔を見合わせて苦笑いをする。貫蔵さん今日は京劇の猿みたいな覆面をしている。


「親である元繁が首領さまに討たれてから鍛え直したということです」


「え・・・それって俺に復讐するためだよね?」


「ええ、まぁそう公言してると聞いてます」


 こっくりと頷く貫蔵さん。そうか・・・根が深そうだな。というか援軍に来ている元就さまに対しても隔意があるんじゃないんだろうか?


「光和が馬鹿をやらないよう監視を強化してください」


「御意」


 今回貫蔵さんは、小さく頷く。あ、消えたりはしないよ?


「うおおおおおお」


 長さ2メートル太さ30センチのうさぎ杵(真ん中が握りやすいよう削ってるタイプの杵)をぶんぶんと振り回し、雄叫びを上げながら光和さんが駆け降りていく・・・


「うわぁ・・・脳って鍛えられるんだ」


「いや、首領さまが現実逃避するのも判りますが・・・」


 貫蔵さんからも同情的な声が上がる。いや、まさか、朝駆けするのに大声上げて突撃するとか思わないだろ。案の定、大内軍の陣からワラワラと兵士が飛び出して来る。

 ぶんと光和さんがうさぎ杵を振るう度に大内の雑兵が八方に飛び散る。たまに腕だけとかが豪快に飛んでいくのが見える。嫌だなぁあんなのと戦う可能性があるのか?


「よし一旦戻るぞ」


 光和さんと中ゴリマッチョたちが十数人の大内兵を文字通りぶっ飛ばして、満足げな顔をして城に引き返していく。その日、光和さんとその一味は日が暮れるまでに5度城から出撃し、大内軍を散々荒らし回ったという。


 -☆-


 休息と編成を終えた銀山城救援のための毛利・尼子軍が、銀山城の麓で大内軍と対陣した。毛利・尼子軍の先陣は亀井利綱さん・湯原幸清さん。亀井利綱さんは、例の坂親子の乱を影で動いていて隠居に追い込まれた亀井秀綱の弟で湯原幸清さんは尼子十旗の一角で出雲国牛尾城主。先祖を遡ると諏訪神社神主家 諏訪氏に行きつく人で後に牛尾姓を名乗る人だ。

 第2陣は平賀興貞・宍戸元源・三吉致高・宮光信(敬称略)。第3陣は元就さま・坂元貞さんと熊谷貞直くん。吉川経世・三須房清・小早川義氏・香川光景(敬称略)の総戦力1万3千である。


「かかれ!」


 まず、大内軍の陶興房・問田興之・杉興相の軍が亀井・湯原の軍と激突した。

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