第48話カニ大将出陣

1523年(大永3年)11月


 坂広時、広秀親子のクーデターは未然に防がれた。尼子経久さんも配下の亀井秀綱を隠居させ家督を嫡男安綱に継がせたそうだ。坂広時、広秀親子の領地は相合元綱さんの領地になり、相合元綱さんは居城を日下津城に移し坂城は廃城にされた。相合元綱さんの船山城には、ふたりの叔父でもある笠間元鎮さんが吉川氏から毛利氏に移籍した上で城代に入った。

 また、移籍した際に生まれ故郷の吉田の地も貰ったことで名を吉田兼重に改めたそうだ。吉田の地は嫡男の吉田元宣さんが治めるとか・・・


 元就さまと妙さまの間に次女「しん」姫さまが生まれた。史実なら宍戸氏の嫡孫に嫁ぐ予定の姫さまだ。ついでになんちゃってオギノ式が毛利氏一門衆に解禁されたそうだ。体温計が未だガチャ頼みなので精度は劣るけど、無暗に撃つよりはマシだろう。

 あ、俺の嫁の話はどうなったんだろうか?いま嫁が来ても大変なだけだが・・・


「首領さま。ただいま戻りました」


 今川貫蔵さんが音もたてることなく部屋に入ってくる。


「高橋の足止めご苦労さま」


「ありがたき幸せ」


 今川貫蔵さんは頭を下げる。今川貫蔵さんとその配下の働きで、高橋氏の戦の準備は大幅に遅れ、計画が1カ月も遅れた。結果、坂親子は気を緩めてしまったのだ。


「ほどなく高橋は暴発するでしょう。十中八、九、東に攻めてくるでしょうから琵琶甲城の口羽殿に警告を」


「御意」


 すっと、今川貫蔵さんの姿が消える。今回の坂親子の乱は、当初、相合元綱さんを旗頭に坂親子と高橋氏が組んで吉田郡山城に攻めるという筋書きだった。

 米の収獲が終り、いざ作戦決行の段階で高橋領で食中毒患者が大量に発生したり、城の蔵が謎の倒壊をしたり、山里の村で熊が出て負傷者が出たり、川が決壊したりと不幸が多発したのだ。まあ水源に腐ったモノを投げ込んだり、黒色火薬の爆発で蔵や堤が吹っ飛んだり、意思疎通できるガチャで手に入ったオオカミが里で無双したのが理由だけどね。

 意思の疎通ができるオオカミと俺のアドバイスから今川貫蔵さんたちの間で、帰巣本能を利用した伝書バト。縄張りを巡回するタカによる早期警戒網。追跡能力に優れた犬の追跡者といった動物忍の育成が始まったのは言うまでもない。


1523年(大永3年)11月中旬


SIDE 三人称


 高橋興光が兵5000で挙兵した。毛利元就が興光の父である高橋弘厚がいる安芸高橋城を攻めたという偽情報を世木氏の忍を使って興光側に流したのが理由だ。だが、形としては高橋興光が毛利氏に謂れのない因縁を吹っかけて攻めてきたことになる。

 事前に準備していた元就は兵7000を率いて吉田郡山城を出立。同時に石見琵琶甲城の口羽広良と矢滝城の畝方元近に兵500を後詰めとして出させ、高橋軍の背後と補給路を絶つよう伝令を出す。


「かかれ!」


 安芸に侵入した高橋軍は、元就の高橋城攻めが虚偽だったことを掴んだが、桂広澄の嫡男である元澄の守る桜尾城に攻め込んだ。軍を引こうにも、事前に兵の戦意を煽っていたのが裏目に出たのだ。二日後、安芸国内にある高橋領の高橋城と猪掛城から弘厚が率いる兵2000が到着。その到着を待っていたかのように、元就が城攻めする高橋軍の横腹を突いた。


「うわー毛利が攻めてきたぞ!」


「石見の毛利軍が背後から攻めて来るらしい」


「ひゃっはー者どもかかれぇ」


「伊予守(弘厚)さまが討たれた。もうダメだ」


「殿が逃げた!」


「興光を逃がすな追え!追え!!」


 たちまち高橋軍は混乱する。高橋軍として従軍していた世木氏、今川氏の忍びが偽情報で陣内を攪乱させたのが原因だ。毛利軍と高橋軍で兵数こそ互角だったが、士気が崩れた高橋軍に勝機はない。バラバラに広がる高橋軍に塊となった毛利軍が襲い掛かりズタズタに切り裂いていく。


「攻めろ」


 桜尾城からも城将である元澄が守備兵を率いて高橋軍への攻撃を始める。この場での勝敗が決した。


「(井原)元師に伝令!兵1500を預ける。安芸に残る高橋をすべて叩き出せ」


「御意」


 元就の近くにいた伝令兵が走り出す。


「我らは興光を追撃するぞ」


「「「「「「「「「「応!」」」」」」」」」」


 元就の声に周囲が怒声で応える。



「井原さま。殿から安芸国内の高橋を叩き出せと下知がありました」


「そうか・・・」


 伝令兵の報告を聞いた、カニのような八本の足が生えた真っ赤な兜、真っ赤な鎧を着た井原元師は、これまた真っ赤な棘の付いた鉄球を持つと馬に跨る。この装備は、井原元師が毛利氏に帰属したとき畝方元近が贈ったものだ。この戦いで、のちに子供からカニ大将という愉快な渾名を付けられる男の出陣であった。

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