第49話節分(閑話)

 節分。春夏秋冬の各季節の始まりの日の前日のこと。古来より季節が変わるときに鬼(邪気)が生じるので追い払うための悪霊ばらいの行事を執り行う。中国から平安時代頃に伝来した「追儺」から生まれた。「続日本紀」によると706年にはこの「追儺」が行われていたという。

 なお、現代のように炒った豆を撒く形になったのは室町時代の書物に見ることが出来る。


 パチパチと篝火が辺りを照らす矢滝城の城下村の広場に、大勢の村人が集まっていた。少し高くなったところには武士のトップである俺、司箭院興仙さん、桂広澄さん、今川貫蔵さん、世木煙蔵さん、千賀地半三郎さん改め服部半蔵さんの6人が立っている。


「ではルール・・・いや規則を説明します」


 俺は大きな桝に入った炒った大豆を握る。


「掛け声は、修験道の役小角えんのおづぬの前鬼と後鬼にあやかって『福は内、鬼も内』」


 バラバラと村人に向かって炒った豆を撒く。興仙さんがめっちゃいい笑顔をしてる。


 なお今年から(というか今年が最初だが)矢滝城で行われる節分の行事は、鬼役とお福役の中の人が村の中にある5か所のチェックポイントのうち3か所以上を巡って城門に設置したお福の口を潜って郭の中に駆け込む。

 村の中では、鬼、お福、村人がお互いに炒った豆をぶつけるカオスが繰り広げられる予定だ。

 なおお福は、たまに餅やお菓子。ミカンやカチグリなどをゆっくり投げてくれるボーナスキャラでもある。ただし鐘が偶数回なる毎にお福は般若に変わるので注意が必要だ。

 ちなみに、お福の口を潜って城門に入った鬼やお福の中の人は、巡ったポイントの数によって景品がもらえる仕組みになっている。5か所だと鍛冶ゴーレム謹製のちょっとイイ刀が貰えるので鬼役のなかの人もお福役のなかの人も真剣だ。

 また豆撒き終了後に、村人は投げられた炒った豆や餅などをそのまま自分たちで食べるか、城門に設置したエクスチェンジボックスに入れて、量によって生活用品と引き換えてもらう事も可能だ。


「ではこのあと、鐘ひとつ叩いて開始する。鐘6つで終了だ」


「「「「「「応!」」」」」」


 村人が机に置かれた桝を掴んで鬼やお福を探しに走り出す。あ、餓・・・子供が枡の炒った豆を食べ始めた!まあいいけど・・・

 やがて「かーん」という鐘の音が鳴り、村のあちらこちらで「福は内、鬼も内」の声が上がる。


「では我らも面を被ろうか」


 俺と桂広澄さんはお福さん。司箭院興仙さんが般若・・・え、般若?いいけど。今川貫蔵さんは犬の覆面で世木煙蔵さんは口から鋭い牙ののぞく能面。服部半蔵さんは継ぎ接ぎだらけで頭に杭の刺さった四角い覆面を被っている。

 うちの忍びたちはどこに行くつもりなのだろうか・・・

 炒り豆の入った桝を左脇に抱え、餅やお菓子、ミカンの入った袋を腰にぶら下げると村に繰り出す。


「はは、まるで今昔物語集の安部晴明随忠行習道語ではないか!」


 長屋の屋根の上をひょいひょいと歩きながら、司箭院興仙さんがなんか難しい事を言ってる・・・


「福は内、鬼も内」


 通りの向こうから声がする。と、目の前を鬼とか天狗とか鼠の面をした男女が走って行った。ああ、安部晴明随忠行習道語って安部晴明が都で百鬼夜行を見たって話のことか。


「あ、こっちにもお福や鬼がいるぞ!」


 村人に見つかった・・・ふふふ我が方に迎撃の用意あり!


 ・・・

 ・・

 ・


 節分の神事が終った。食べきれなかった炒った豆が村人によって集められ、エクスチェンジボックスに入れていく代わりに茶碗や鍋、包丁、皿といった生活雑貨に交換される。拾いきれなかった炒った豆は明日の朝鳥たちの餌になるだろう。そして村人が全員家に帰った頃にはエクスチェンジボックスのカウンターが一番高いコインになっていた。


「ぽちっとな!」


 不意に背後から声がして、司箭院興仙さんの手がするすると伸びてくるとガチャのボタンを一寸のためらいもなくぽちっと押す。


「ぐはっ!なんてことを」


「むほほほ!押すと動くものがあれば押すのが人の性じゃ!!」


 司箭院興仙さんがカラカラと嗤いながら大きくジャンプして姿を消す。

 がちゃんという音とともにガチャ箱から出てきたのは、SR朱漆塗海老形兜。前立てに立派な立派な伊勢エビの飾りがついたオモシロ兜がドロップ。

 最近、SR紅蠍型兜だとかR紅緋色威鎧だとかR赤色星球式鉾だとか見た目にもイロモノなものがドロップして、井原元師さんがどこぞの正義の仮面騎士に出てくる悪の組織の大幹部みたいな風貌になったばかりだというのに、とても嫌な予感がするのです・・・

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