第41話多治比元就さま毛利元就さまになる

1523年(大永3年)1月


 元就さまの元に、毛利宗家の重臣である福原広俊さん、中村元明さん、坂広時さん、渡辺勝さん、粟屋元秀さん、赤川元助さん、井上就在さん、井上元盛さん、赤川就秀さん、飯田元親さん、井上元貞さん、井上元吉さん、井上元兼さん、桂元澄さん、口羽広良さん以上15名による「元就を毛利家当主として認める」という連署状が届いた。

 元就さまは形式的に一度だけ断ってから連署状を受け取ると、吉田郡山城に入り多治比元就さまは毛利元就さまになったことを内外に宣言した。

 つぎに毛利幸松丸さまが出家し、元就さまが頭領になったことで組織の改編が行われた。基本的には毛利幸松丸さまの位置に元就さまが、元就さまの位置に毛利少輔太郎さまが収まって、俺の肩書きが多治比家御伽衆から毛利家御伽衆に代わって、正式に矢滝城の城代に任命されたよ。

 あと、毛利少輔太郎さまが元服するまで多治比領は元就さまが引き続き統治することが決まった。

 

 こうして最初の新年の挨拶が行われる。


「この度は毛利家頭領に就任おめでとうございます」


 そういって元就さまに頭を下げたのは尼子氏の筆頭家老の亀井秀綱。名前は亀でも顔は出っ歯な猿だな。史実で残っている彼の実績は、大内氏に利する行為の連発である。ただ出雲の宗教関係者に顔が効くらしい。元就さまには要注意人物として報告しておこう。あ、坂広時、広秀さんにさりげなく視線を送って坂広時さん坂広秀さんが応えてる。怪しい。


 近隣の国人からの使者が次々と元就さまに挨拶し、新年の宴会になる。「毛利の家わしのはを次ぐ脇柱」新年の宴会で元就さまが詠んだ歌である。


 新年会の3日後この年の一年の計が論議された。まず報告として毛利・多治比領の収穫が米だけで15万石を越えた。その他の雑穀を合わせれば28万石越えて下手な小大名クラスだ。

 つぎに俺の作る私鋳銭と食糧が近隣の生城山天野氏、香川氏、白井氏の経済圏を浸食していることが報告される。

 一年の方針は、

・戦争の気配が遠いいま一層内政に励む。

・安芸国内の親大内派である白井氏、阿曽沼氏、野間氏と石見の高橋氏に圧力をかけていく。

 去年の多治比氏目標のバージョンアップ版かな。


「我が配下によって集められた近隣の情勢です」


 末席に座っていた俺は、巻物を壁にかける。描かれているのは簡単な西日本の勢力地図。毛利氏の支配下は青。尼子氏の支配下域は赤。大内氏の支配下域を黄色。その他を緑としている。

 尼子氏は出雲から東に矢印があり、大内氏は筑前(福岡北西部)、豊前(福岡北東部から大分北部)のところに×印がある。×印には豊後(大分南部)、肥前(佐賀から長崎)から矢印が伸びている。

 尼子氏は今年から東の伯耆(鳥取西部)に侵出する。これは尼子国久さんが酔っぱらったときに漏らした情報。

 大内氏は今年の夏までには筑前、豊前での反乱を鎮圧するだろうというのが今川貫蔵さんの情報。


「そして恐らくですが、京の細川高国管領殿が貿易を巡り明で大内と一戦交えます」


 俺が地図の左上をこんと叩くとざわめきが上がった。


「それは誠か?」


 福原広俊さんが尋ねる。


「殿より、京で人脈構築のついでに管領殿を煽る噂を流すよう指示を受けました。その成果が出たようです」


 御伽衆としての仕事がんばってマス。


 - 石見(島根西部)矢滝城 -


 芋焼酎の生産を対価に、尼子国久さんから温泉津港より東にある寂れた漁村を貰った。漁村を貰ったのは多治比氏が南下し海を手に入れたときのことを見据え、流下式塩浜(塩田という言い方は明治時代から)の試験導入をするためだ。

 流下式塩浜は、浜辺に竹を枝状にした枝条架というものを立てかけて、その枝条架に海水をかける。すると、風と太陽光で海水からいくらかの水分が蒸発し、脚部に濃縮されたかん水として溜まる。溜まったかん水を更に枝条架にかけて何度か濃縮したかん水を煮詰めて製塩するという方法。

 それまでの海岸近くに防水層を作って砂を敷いたものの上に海水を撒いて、頻繁にかき混ぜながら天日と風で水分を蒸発させたモノを水で煮詰めて製塩する揚浜式塩浜法に比べ、労働力と労働時間と製塩量に大きく差がつく方法だ。


「この方法、手前どもで手掛けても?」


「すぐに真似されて大儲けにならんぞ?」


「左様ですな」


 萩屋文左衛門はうんうんと頷く。


「文左衛門殿には建仁寺との縁を繋いでもらったからな。止めはしないぞ」


「手前どもも、少し儲けるぐらいでやらせて頂きます」


 萩屋文左衛門は実に良い笑顔を返して来る。


「そうだ文左衛門殿。貴方の元にいる腕の良い大型船の建造経験のある船大工を雇いたいのですが」


「畝方さま。それは船をお造りになると?」


 萩屋文左衛門の目がきらりと光る。どうでもいいが目が光る人が多くないか?とりあえずこの寂れた漁村に帆船を作るためのドックを作るように手配をしてもらう。

 目指せビクトリア号だが、まずは全長16mぐらいのスケールダウンした帆船を試験建造する事から始めよう。※なお「キャラック船ビクトリア号を作る(全120巻)」はコンプリートしていない模様。

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