第37話日刊ガチャ キャラック船ビクトリア号を作る(全120巻)繰り返すけどガチャ

1522年(大永2年)5月

- 安芸(広島)-


 元就さまが三入高松城から南に下って瀬戸内海の制海権を得るという方針を決めてから、ガチャが荒ぶり始めた。


「ガチャ、たーいむ!」


今回は奮発して唐芋サツマイモを全力投入した。


がこーん


「Cキャラック船ビクトリア号を作る(全120巻)第2巻!」


べしっ!


 思い切り床に叩きつけたよ。なんだよ全120巻って!

 ちなみにキャラック船ビクトリア号は、1519年から1522年にかけてフェルディナンド・マゼランを船長とする初の世界一周を果たしたスペインのキャラック船5隻のうちの1隻だ。

 恐ろしい事に、週刊ではない。月刊でも日刊でもない。しかも出る巻はランダムで10日間連続して出ることもあれば3日間連続で出ない事もある。そして気持ちが良いぐらいにダブる。マゼラン含む船長5人セット(しかもSR)が3回連続で出て、即エクスチェンジしたのはいい思い出。くそが!

 完成するのは、貴族の出資を募るためのプレゼンで使うためのサイズが縮尺するも設計図通りに造られた帆船模型。毎号設計図と解説書つきだったので、これで帆船が造れるのは良い事だ。生産可能でドロップが終了したガチャ品がいくつかあるので補充されたんだろうな。

 だから早く1巻が出ないかな。だから早く1巻が出ないかな。大切なことなので2回言いました。物欲センサーオン!で、まだバラバラに30巻ほど揃ってないんだけどね。


「首領さま」


 今日ガチャで出た「キャラック船ビクトリア号を作る(99巻)」を専用の葛籠に納めていると後ろから声がした。振り向くとネズミのお面を被った今川氏所属の下忍の少年が立っている。

 この「首領さま」は、忍びの元締めをいつまでも本名で呼んでもらうのは危ないので、「首領さま」と呼んでもらっている。今川貫蔵さんや世木煙蔵さんといった忍者家のトップは頭領と呼ばれている。

 お面を被っているのは、お面で正体を隠すのが流行っているから。いまは十二支の動物を被るのが流行さいせんたんらしい。中忍、上忍になるほどお面はリアルになって、貫蔵さん煙蔵さんといった頭領たちは俺がガチャで出して下賜した覆面を被っている。ハッ〇リくんの覆面とケ〇マキくんの覆面は惜しまれつつもお蔵入りにしてもらったのだ。

 なかには普段でもお面や覆面を被っている剛の者もいて、神楽団の役者だとうそぶいてるそうだ。今年の秋祭りが大変楽しみである。


「大内義興を総大将とした兵1万。周防(山口南東部)を出立し九州に向かいました。またこれを受け尼子経久を総大将とした兵6000が出雲(島根東部)を出発」


 下忍の少年が報告する。1年前倒しだが史実通りだ。尼子軍に応じて親尼子派国人連合軍の兵3500が鏡山城に向かい、毛利宗家の毛利幸松丸さまもこの戦で初陣を飾る。


「殿に手紙を届けてください」


 俺は小さな葛籠を開け、手紙を取り出す。この戦いで鏡山城には大内派の蔵田房信と叔父の蔵田直信が入る。史実で元就さまは、蔵田直信に蔵田氏の家督を餌に内応させて鏡山城を落とすのだが、この策が元で元就さまと経久さんの関係にひびが入る。元就さまの才に危機感を覚えた尼子経久さんが元就さまをディスり始める。

 その後に起きる毛利宗家の家督問題に尼子経久さんが介入してきて、完全に仲の拗れた元就さまは、尼子氏から再び大内氏に旗を代えるのだ。それはマズイので、手紙には策を実行する前に必ず総大将である尼子経久さんに連絡し、相談し了承を得るのが大事だと書いておく。敵将の一人を内応させる以上、内応の対価を払っていいか総大将に事前に了承してもらう必要があるからね。


 あと毛利幸松丸さまは、まだ子供だから嫌がるようなら無理をさせないようにと警告しておく。毛利幸松丸さまの死因って、この戦で討ち取った武将の首実験を無理やりやらされて、ショックから卒倒してそれから衰弱死なんだよね。

 助けたいけど、その程度で卒倒する毛利幸松丸さまを本家の家臣団も分家の家臣団も毛利氏の当主として認めないだろう。例え毛利幸松丸さまが病死しなくても、家臣団による押し込め、いわゆるお家騒動が起こる。いずれにせよ戦国武将としての毛利幸松丸さまは死ぬ。

 俺にとって一番都合が良いのは、病気で倒れてもらって元就さまに家督を譲った後に出家だな。俺の村にある寺の坊主にでも祀りあげるか?流石にそれは権力闘争的に無理か?元就さまに相談だな。


 下忍の少年が出て行った後、俺は外に出る。いま俺が住んでいるのは北の山の山頂の郭に建てられた小屋にいる。麓の長屋生活は半月もなかったな。地面掘削はゴーレムがやっているので、平らになったところから家が建っている。

 家は、最初が山の麓で次が北の山の山頂。麓のくびれ部分には、既に郭に囲まれた工夫の村になってる。郭の外は堀代わりの田んぼや唐芋サツマイモ畑が広がっているし、南の山の中腹には大豆や稗、粟、蕎麦の段々畑も出来ている。人足たちに休みという概念が定着していないのと、定住希望者に耕作地を割り当てた結果だ。最近では、田畑目的に田植えの終わった近隣の村から三男坊、四男坊が集まっていて、郭の外にも家が建ち始めているようだ。


「畝方さま」


 見るからに裕福そうな男が護衛らしきふたりの男と共に歩いてくる。


「これは文左衛門殿。今日はお約束がありましたかな?」


 男の名前は文左衛門。萩屋の屋号を持つ温泉津港の商人で、俺とは粗銅の買い取りと精製銀の販売をメインに取引している商人だ。


「いえ、畝方さまの情報で儲けさせてもらったお礼に来たのです」


 ああ、大内氏が九州に向けて戦の準備をするから安いうちに米を買った方が良いよとアドバイスしたんだっけ。


「お礼ですか?そうですね。京の建仁寺に縁が繋げませんか?費用は払います」


 俺のリクエストに、萩屋文左衛門は顔を引き攣らせて笑った。

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