第23話尼子経久と八岐大蛇 ~出雲にて~
月山富田城は平安時代に平景清(これで勝ったと思うなよ(それは弁慶))が築いたという伝承のある城で、1392年(明徳3年)に出雲尼子氏の祖である尼子持久が城主に入ってから1566年(永禄9年)に毛利軍に開城するまで尼子氏の居城だった城だ。途中2年ほど尼子経久がやらかしで城を追放されていた時期もあるが、尼子氏6代の隆盛を見守って来た。なお、1486年(文明18年)に追放された尼子経久が奇策によって城の奪還を果たした際に城を強化している。
1518年(永正15年)9月
「多治比家家臣で
「尼子伊予守、で、おじゃる」
俺が頭を下げた先で、齢60を超えてもイケメンおじゃる丸という言葉がピッタリする男が気だるげに言葉を返す。だが目が笑ってない。尼子経久さんが中国地方の三大謀将と称されている人だから解った。イケメンおじゃる丸なのは相手を欺くフェイクだな。
「この度の佐陀大社への口利き、誠に有り難く存じます。これは伊予守さまへ贈り物です」
うやうやしく頭を下げ、持ってきた包みを差し出す。
尼子経久さんの横にいた小姓が進み出て包みを受け取ると尼子経久さんに差し出す。包みを縛る紐を解き、出てきた白木に手を掛けると、すらりと引き抜くと、ほうと尼子経久さんは大きくため息をついた。
「刃の長さは約3尺3寸(約100センチ)。刃幅は広く、反りは浅い。切先は・・・大切先」
尼子経久さんは懐紙を取り出し刀に息がかからないように口に咥えると、刀身を眺める。
「刃文は逆がかった大模様の丁子乱れ。備中の刀鍛冶である末青江の色を濃く残しておるが、古くはない・・・」
ガチャで出たレーティングSRの「ちょっと良い刀」という適当感が丸出しの名前の刀だったんだけど、凄い物らしい。大内さんの所に贈ったヤツもレーティングが同じなので問題はないだろう。
「銘は、切って無いか・・・」
尼子経久さんは柄を外して、なかごを改め、それから丁寧な作業で元に戻し、袋に仕舞う。
「実に良き物を頂いた。でおじゃるな」
取って付けたような「おじゃる」である。
「多治比殿にも宜しく伝えておいておくれでおじゃる」
「ははっ」
こうして尼子伊予守経久さんとの最初の謁見が終わった。
佐陀大社
佐陀大社は出雲国二ノ宮であり、出雲国三大社の内の一つだ。佐陀大社で旧暦8月24日・25日に行われる御座替祭。その祭で舞われる神事舞が中国地方の里神楽に大きな影響を与えて、出雲神楽の源流と言われている。
目の前の舞台でどう見ても龍に見える八匹の蛇がのたうち、その間を一人の若武者が刀を持って乱舞している。いま俺は、佐陀大社の御座替祭で舞われる日本神話や神社縁起などを劇化した神能の稽古を見ている。
お題目は日本神話の八岐大蛇。神楽では八岐大蛇または大蛇と言われる演目。演目が単に大蛇なのは、出演するのが八岐大蛇ではなく数匹の大蛇だからだろう。多分。
話の筋は、高天原を追放され出雲に降臨したスサノオノミコトが、悲観する老夫婦と若い娘に出会う。夫婦は名を
悲観していた理由は、いままで七人の娘を八個の頭を持つ大蛇に生贄に差し出していた。いま最後の娘まで差し出さなければならないので悲しいと。
スサノオノミコトは娘
八つの門を作り、八つの門の前に七回醸した強い酒を用意。
作戦は成功し、スサノオノミコトは八岐大蛇を討ち取る。その際に尻尾から出てきた天叢雲剣と嫁をゲットしましたとさ。めでたしめでたし。という話。
この話、古事記では「高志之八俣遠呂智、年毎に来たり」という記述がある。高志とは越。北陸地方(越前、加賀、能登、越中、越後)を支配していた豪族のこと。つまり出雲に侵略して来た越軍を大和朝廷から派遣されてきた将軍が撃退。出雲が大和朝廷に従属したという話の神話化だと思っている。姫(血縁)と武器(兵力)を手に入れている訳だからね(個人的な見解です)
「
佐陀大社の氏子で神能の指導者の一人である平衛を名乗る老人が声を掛けてくる。
「すごいですね。是非とも、この神舞を我が村で奉納したい」
俺の言葉に平衛さんは目を細めて笑う。この老人は今年の御座替祭のあと村に来て、この神能「八岐大蛇」の指導に来ることになっている。ついでに神楽の舞台と神社のお社の建設指揮もお願いしている。なにせ本職は宮大工の頭領さんだ。
なお、寺の中に小さな神社という計画は、経久さんの口利きから佐陀大社から分社をいただけることになったため計画を変更中である。
ただ、本願寺派対策はしないといけないので神仏習合で行くことは決まっているのだがお坊さんの招聘が決まってない。村の規模が小さいからか、来ること渋っているらしい。立派なお寺を造ったんだけどなぁ・・・
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