第22話(子を)産めよ(食べ物を)増やせよ地に(喜び)満ちよ

1518年(永正15年)7月


 オギノ式。1942年に産婦人科医の荻野久作先生が発見した月経周期に関する「荻野学説」を基にした計算式。大雑把にいうと、次の月経予定日からさかのぼり12、13、14、15、16日目に性交することで妊娠し易くなるというもの。これに、女性の基礎体温が排卵を境に多くは低温期から高温期に、月経を境に高温期から低温期に移るというリズムを把握することでより妊娠の確率を上げるのだ。(※本当に大雑把です)

 何が言いたいのかというと、戦国時代の国人衆の大事なお仕事のひとつに子孫繁栄がある。うん。ガチャで体温計が出たのよ。俺は元就さまに色々な情報を集めて報告する御伽衆だから、唐天竺の秘術と称して元就さまと妙さまに妊活して貰った。で、即ご懐妊。元就さまの俺に対する信用度がさらに急上昇です。

 ただ、元就さまと妙さまの第一子といえば元就さまの外戚である高橋氏に養女という名の人質に出されるんだよね。で、元就さまが高橋氏の粛清を開始したときに高橋氏の手によって処刑されるという悲劇の女の子。どうするかな・・・


 オギノ式導入には思わぬ副産物もあった。まず太陽暦のカレンダーの導入。この時代の暦は、月の地球に対する公転周期、約29.5日を1月とし、29日の小の月を6カ月30日の大の月を6カ月とした1年約354日とした太陰暦。

 しかし太陰暦は、地球の太陽に対する公転周期、約365.3日に対し約11日も誤差が出る。これを約3年に一度、閏月という1ヶ月を挿入して13ヶ月とし、季節とのずれを少なくするための調整をするのだが、挿入する時期が異なるという大らかなものだ。つまり俺からすると非常に面倒臭い。

 どうせ種撒き時期を固定するために農業カレンダーを普及させるのだからと、最初から太陽暦のカレンダーを導入させてもらったのだ。便利さに気付くのは数年後だろう。当分は身内で細々と使用することになるだろう。

 あと、体温計が病気の初期発見の道具として。また体温計に記されているアラビア数字が帳簿の表記として広がっている。計算を教えるのにも便利だからね。


1518年(永正15年)8月


 稲が生長するにつれ、正条植えを行った田んぼの農民から感嘆の声が上がった。苗が均整に植えられることで生育が統一され,雑草の除去作業なども円滑かつ能率的に行うことができるのだ。

 唐芋サツマイモ、大豆の生育も順調。菜の花はあまり育たなかった。基本的に菜の花の種まきの適期は9から10月だって。慢心してました。


畝方せがたさま。至急、多治比猿掛城に登城せよと使者が来ました」


 四郎が書状を持って走ってくる。ちなみに四郎も六郎太も国司元純さんを烏帽子親に武士として元服していた。四郎は甘草四郎定純あまくさしろうさだずみ。六郎太は間壁六郎太近純まかべろくろうたちかずみを名乗っている。字は違うけど、四郎は魔界で転生した人で六郎太のほうは隠し砦の人だな。そうなるよう誘導したのは俺だが。



 多治比猿掛城に登城すると、評定の間で待っていたのは元就さまだけだった。


「よく来た元近」


 元就さまは持っていた書状を投げてよこす。俺は恭しく拾いあげると書状に目を通す。差出人は京で大内義興さまに仕えている笠間元鎮さん。元就さまの父、毛利弘元の弟にあたる人で、幼少時に大通院に預けられて出家し浄閑と名乗っていたけど、このたび還俗し、吉川氏配下の笠間刑部少輔の養子となって笠間五郎兵衛笠間元鎮を名乗っているという変わり種。

 で、笠間元鎮さんからの情報によると、大内義興さまが管領代を辞して8月に堺を出発するというものだった。


「(大内)左京大夫さまは(尼子)伊予守の横槍に耐えられなくなりましたか」


 俺の言葉に元就さまが僅かに頬を歪める。何故か?有田中井手の戦いで武功を挙げた元就さまの元に舅の吉川国経さんを通じて尼子経久からの調略を受けているからなんだよね。吉川国経さんと尼子経久って、妹の吉川夫人を通じての義兄弟だし。


「左京大夫さまが帰国されるということはご機嫌伺いをしなければならない。何か贈るものがないかと思ってな」


「ああ、なるほど。」


 思わず手を打つ。俺にとってエクスチェンジボックスのレアリティアップの糧に成り下がったガチャコモンのアイテムもこの時代の人には珍妙なアイテムが多い。

 村を貰ったので、村人に生活向上のための褒美と称してばら撒いていたのだが、ある日唐芋サツマイモ教の敬虔なる信者である志道広長さんによって、少なくない数のコモンアイテムがお宝認定され、元就さまに献上されているのだ。

 ちなみに、村人一番人気は蛍光石で長時間光る夜光灯。二番人気は陶器の湯飲み茶碗。三番は綿の服だ。


「夜光灯に太刀。砂糖を入れた壺はどうでしょう」


「どの太刀がいい?」


「無銘のやつを贈り、左京大夫さまに銘を頂くのです」


 元就さまは「それはいい」と笑う。


「で、本命はなんでしょうか?」


 含み笑いをしている元就さまを半眼で睨む。


「元近から出雲(島根東部)の佐陀大社に人を遣るという話があっただろ?」


「ついでに伊予守殿を見てこいと?」


 そういうと、元就さまは、なんだ解っているじゃないかという顔をした。

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