第17話漁夫の利を得ようか

 見事、武田元繁を討ち取った俺は、丈八蛇矛の穂先に元繁の首を括り天に掲げる。総大将を討たれた安芸武田軍。親分の仇を討つとか考えない。命大事である。なぜなら部隊の大半は雑兵、いわゆる農民だからだ。

 大将が討たれたと知った安芸武田軍の前衛があっという間に崩れる。蜘蛛の子を散らすとはまさにこの事である。


「どけどけ!」


 志道広長さんが部下を引き連れて追撃にかかる。単に大声で安芸武田兵を追い散らしているともいうけどね。

 俺は急いで元就さまの本陣に駆け付け武田元繁の首を届ける。陣内はそれはもうお祭り騒ぎだ。5倍の敵を蹴散らしたのだから当然といえば当然だが。

 よく見ると毛利元綱さんや渡辺勝さん坂新三郎さん志道広良さんの顔が見える。元就さま直臣の皆さんの顔は・・・ここには無いな。おそらく前線で掃討作戦に従事しているのだろう。


「よくやった三四郎」


「ありがたき幸せ」


 元就さまのお褒めの言葉に俺は深々と頭を下げる。俺のことを腰巾着と陰口をたたいていた毛利家家臣の人たちの顔色が悪い。


「あれを使い更なる武勲を」


 元就さまが指さした先には、事前の打ち合わせで用意して貰っていた熊谷元直の鎧兜の入った鎧櫃を持った雑兵がいた。俺は鎧櫃を受け取ると、次の作戦のために南に向かって走りだす。

 付き従うのは、俺が付き合いのある村の隣りの村出身だというベテランおっさんの足軽さんと新米っぽい青年雑兵の4人。

なお、俺の部下である四郎と六郎太は先行して熊谷元直の居城である三入高松城に向かってもらっている。三入高松城を攻略するための工作活動をしている国司元純さんと合流するためだ。


-☆-


「馬が欲しい・・・無理だけど」


「はは、三四郎は武田の総大将を討った。すぐに馬にも乗れるよ」


「いま欲しいんだけどね」


 鎧櫃を担いで走りながらベテランおっさんの足軽さんこと五平さんと掛け合いをする。いま平気な顔をして走れているのは走力と持続力(中)というスキルを得て進化した飛脚力のお陰だ。これは、体力を付けるために、毎日のように多治比猿掛城と拠点にしている村の間の山野を走っていたスキルだ。それに加え、最初に造った生産拠点まで物資(主に唐芋サツマイモ)を取りに毎週のように爆走したことも原因だけどね。


 ついでに、いま得ているスキルを経過とともに説明しておこう。

 まず猟師の人にバッチリ鍛えられて弓術(中)に進化した。鑑定(小)は算術と交渉術を覚えたら統合されて商術になった。これは毛利家の領内に唐芋サツマイモを売りまくった結果とも言える。なので、毛利本家では俺のことを多治比家御用商人だと本気で思っている人がいる。称号の目利きの人が多治比家御用商人に変化していたよ。


 で、今の俺のスキルはこんな感じ。

・基礎:金剛力、飛脚力(new)

・武術:剣術、槍術(中)、弓術(中)

・生産術:商術、狩人術、農業術

・称号 多治比家御用商人、多治比家雑兵、農業指導者、槍術指南、大物食い(new)


 そうそう。いくつかのスキルが統合されたけど、統合されたスキルは選択すると詳細が確認出来たりする。例えば商術をタップすると、算術(中)交渉術(中)鑑定(中)話術(中)が表示され、話術(中)を選択すると「他人との会話を円滑に行うことが出来る」という説明がでた。


「うん?あれは、多治比さまの兵か、の?」


 位置的には有田城と三入高松城のあいだのところで不意に五平さんが走るのを止め、後続の新米兵にも走るのを止めるように指示を出す。よく気付いたな。


「お待ちしておりました三四郎さま」


 暫くしてやってきたのは、俺の部下である六郎太。どうやら、無事に元純さんと合流し、迎えに来てくれたようだ。五平さんたちにその事を説明すると緊張感が一気に四散する。

 それから六郎太に案内され、小高い山の麓まで辿り着く。


「おう。ようきた。お主が来たという事は、我らの勝ちか?」


 見るからに好々爺といった感じの総白髪の老人が俺を出迎えてくれる。この人、足利尊氏の重臣高師泰の子、高師武を祖に持つ国司元純さん。毛利宗家である豊元、弘元、興元に仕え、元就さまの幼少期の後見役も勤めた人物だ。

 毛利宗家、3代前の当主である豊元の没年が1476年なので、最低でも40年間を毛利家家臣として働いてきた武人だ。史料にも生没年月日がないので、何歳なのかも判らなかったりする。


「はい。熊谷元直を捕縛し、敵の総大将である武田元繁を討ち取りました」


 そういって俺は鎧櫃を開く。中に入っているのは熊谷元直の鎧兜と元就さま直筆の書状。


「うむ。間違いなく多治比殿の筆じゃの。うむ。なんと三四郎が武田刑部を討ったのか」


 国司元純さんの顔が笑顔に崩れる。もし俺が手柄を立てなかったら、身元引受のために養子にしてくれると言ってくれた人の笑顔は俺も嬉しい。


「では井原常陸介殿が到着したら予定通りに、三入高松城を落とすとしようかの」


 国司元純さんの顔に悪い笑顔が浮かんだ。

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