第16話激突!安芸武田軍 VS 毛利・吉川軍

 勝鬨をあげるやいなや、元就さまからの使者が飛んできて、がっつり怒られた。

「まだ初戦を取っただけだ。気を抜くな」と。もっともである。ただ怒られたのは俺と志道広長さんのふたりだけ。解せぬ。


 宮庄経友さんが捕らえた熊谷元直は、鎧と兜をはぎ取られて縛られたあと後方に護送されていった。史実では宮庄経友さんに討たれた熊谷元直なのだが捕虜になった。歴史が変わった瞬間でもある。

 これで史実にあった、熊谷元直を討たれたことを知った熊谷元直の嫁さんが、夜陰に紛れて中井手へ忍び込み、旦那の遺体を発見。巨漢だった旦那の遺体を持ち帰ることが出来ず、旦那の遺体だと見分けた腕を切り取って持ち帰るというイベントは発生しなくなるわけだ。

 その代わり、熊谷元直の居城である三入高松城を今回の混乱に乗じて乗っ取るというイベントが発生する予定だ。そのための準備も国司元純さんを中心に進めている。

 なにしろ、今回の戦に安芸武田側は5000もの兵士を動員している。駆り出された国人の城では守る兵の数がお察しなのは調査済みなのだ。

 熊谷元直を捕らえて生死は不明の状態にしたので、作戦はすでに開始されている。熊谷元直が「死んだ」「捕らえられた」「捕らえられたが逃げ出した」「逃げ出すことに成功した」という情報を熊谷元直が率いてきた雑兵の口から広めるよう工作もしている。

 俺たちの隊はつぎの地点を目指し移動を開始する。熊谷隊を打ち破り、浮きたった戦場に再び緊張感が漂い始める。

 

 つぎに俺たちが伏したのは、今朝陣取った場所より更に南西に下った山の中腹である。確か武田元繁は、伴繁清と品川信定に兵700を預けて有田城の包囲を任せ、自ら4000近い兵を率いてここに来るんだよな。元就さまには、「元繁は猪武者だから、耐えていれば我慢できず前線に出てきますからそこを叩きましょう」と進言している。そしてその進言は元就さま以下、幹部全員の意見の一致を得ている。まあ、元就さまが強引に決めて、他の方々が渋々受け入れたというのが正しいのだが・・・


「志道さま。武田軍です」


 有田城の方角を望遠鏡で見ていた俺は、色々な旗差しの中に武田菱が描かれた旗差しを確認したことを報告する。


「伝令。武田軍の本隊が来た」


「はっ」


 側に控えていた伝令兵が大きな声で返事をして走り出す。安芸武田軍約4000対毛利・吉川軍約1450。ランチェスターの法則を当てはめるまでもない。2.96:1の絶望的なまでの戦力差。ただこれは、戦場が平地で全軍が激突したのならの話だ。


「敵は五段に分けての鶴翼。なんとかなりそうです」


 安芸武田軍は、史実通り4000の兵を五段に分け、両翼を突出させた鶴翼の陣でこちらに向かってきている。総合的な戦力差に物を言わせ物理的に圧し潰す必殺の陣なのだろうけど、それを五段に分けて一段ごとの戦力差を縮めていたら意味がないよね。

そして眼下、又打川の西の広い場所には、吉川氏と毛利氏の家紋が描かれた旗差しを掲げる軍勢が展開しているのが見える。

 これで安芸武田軍は、元就さまの軍勢を撃滅するため、途中の又打川を渡河しなければならない。移動速度が落ち、更に数の有利を活かせなくなっている。

 そして武田元繁は、戦線の膠着に怒りを覚えて最前線にまで出て来て指揮を執るのだ。こうしてみると、この戦いで元就さまが勝ったのは奇跡でないという事が判る。

 史実は、後の世に西の桶狭間といわれる戦いのメインイベントの幕が上がる。



「掛かれ、圧し潰せ」


 安芸武田軍の兜首が叫ぶのと同時に、安芸武田軍の第1軍が前進を始める。しかし、一面辺りの戦力差に劣り、足場は不安定な川の中、通常より射程の長い槍による攻撃を受ける武田軍の足取りは遅い。元就さまが味方を鼓舞しているのが見える。


 1時間、2時間・・・毛利・吉川軍はよく持ちこたえているが、そろそろ疲れが見えてきたようだ。安芸武田軍左翼の兵が徐々に渡河を完了し、あ、毛利・吉川軍の右翼の指揮官は経友さんか。

 某無双なゲームのように、長槍で突き、突き、横払い、くるっと槍を一回移転させての範囲攻撃というコンボが炸裂。渡河した安芸武田兵が蹴散らされていく。あっちは宮庄経友さんに任せよう。


 元就さまに望遠鏡を合わせると、いままさに元就さまの近くにいた足軽が腰に差していた手旗を取り出して、こちらに向かって振るのが見える。

 俺たちに行動を開始するよう合図を出したのを望遠鏡越しに見た俺は、その事を広長さんに報告する。命令受諾の手旗を発信したのち俺たちの隊は山を下り、安芸武田軍の側面を目指す。


「押せ押せ!このまま毛利軍を撃破しろ!」


 一際立派な装備の鎧首が大声をあげながら馬を駆ってこちらに向かってくるのが見える。史実を鑑みるまでもなく、あれが武田元繁だな。


「志道さま。あれが武田元繁では?」


 俺は志道広長さんに望遠鏡を渡して武田元繁がやってくる方を指さす。


「おお、間違いない武田刑部殿だ」


 志道広長さん呼び捨てにしないとか真面目だ・・・裏取りが取れたことを良しとしよう。


「盾隊。投擲準備」


 盾隊に竹束の裏、持ち手の近くに括りつけていたソフトボール大の陶器の玉を取り出すように命令。つぎに盾隊は、渡していた火口棒(竹製の圧気発火器ファイヤーピストン)で火種を作り始める。

 火口棒はガチャ品だったけど、構造は簡単なので鍛冶師の人に渡してバラして構造を覚えて貰って量産してもらっているのだ。

 生産に成功したら、「火口棒がガチャのリストから外れました」ってメッセージが流れたときはびっくりしたよ。新しいガチャが補充されるのか、いずれガチャが廃止されるのかは謎だが・・・


「あれが刑部(元繁)ぞ。矢を放て」


「着火!てつはう。投擲開始!!」


 元就さまのいる方角へと鏑矢を打ち上げ、矢を射掛け陶器の玉の投擲を命じる。火縄銃出現まで出番のないと思っていた黒色火薬さんに出番があったよ。

 元寇襲来のときに登場し、長らく大きな爆発音と煙によって敵を威嚇するための武器だと考えられていたけど、そんなことはなかった。

 陶器の椀に火薬以外に青銅やら鉄の破片を一緒に仕込んだ、十分に殺傷能力のある武器だったことが21世紀に入ってから確認されているお手軽兵器だ。利用しない手はない。


 ばーん


 大量の矢と大きな爆発音と煙と金属片が安芸武田軍に襲い掛かる。爆発音がショボいと感じるのは気のせい・・・あ、音が重なって轟音になった。元繁の馬が川中で棒立ちになる。あれではイイ的だ。


 どうっ


 武田元繁が川中に落ちる。


「ひゃっはー!大将首だ!!者どもかかれぇ!!!」


 真面目だと思った志道広長さんが世紀末雑魚モヒカンみたいな口調で突撃の指示を出す。

「「応」」」と盾隊を先頭に竹槍隊が竹槍を水平に構えて前進を開始する。安芸武田軍の横腹に突撃だ。

 俺も丈八蛇矛・・・三国志演義で燕人張飛益徳が愛用したという、先の刃の部分が蛇のように波打ったような矛を振り回して追随する。

 武田元繁の周辺は「てつはう」の影響で大混乱の極みにあった。おおっと、まだ矢が降ってくるな。丈八蛇矛で飛んでくる矢を弾き、逃げ回る足軽を斬り伏せ、武田元繁が落馬した場所を目指す。

 いた。俺は武田元繁の首めがけ丈八蛇矛を振り下ろす。ざんと武田元繁の首が斬り飛ばされ血が噴水のように吹き上がる。


「武田刑部!多治比家家臣の三四郎が討ち取った!!」


 武田元繁の首を丈八蛇矛の穂先に掲げ大声で叫ぶ。

 爆発的な叫び声が戦場を木霊した。

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