第15話有田中井手の戦い 開戦
1517年(永正14年)11月
有田城を包囲する安芸武田軍に動きがあった。包囲直後から有田城の東を流れる冠川に攻城戦の最中に多治比・毛利連合軍に横腹を突かれぬための簡易陣地がついに完成したのだ。ほどなく安芸武田軍きっての猛将である三入高松の国人である熊谷元直が守備に入った。
「殿。武田軍の熊谷元直が率いる兵約600。城下に侵入してきました!」
「殿。武田軍が城下の村に火を放ち狼藉乱暴を働いているとの通報が!」
次々と入ってくる安芸武田軍の動向。まあ、半年もあれば、情報の伝達経路を整備するのなんて造作もないことだよ。
「各個撃破の好機ですね」
俺の発言に元就さまが笑う。まずは冠川の陣地から出てきた600。勝利条件は指揮官である熊谷元直を討つこと。敗北条件は指揮官である熊谷元直を討つ前に安芸武田軍の援軍が到着することだ。
「陣触れを大殿と吉川殿に。事前の打ち合わせ通り。広長、三四郎。お主たちは即刻150を率いて先行せよ」
「はっ」
俺と志道広長さんは立ち上がり、評定の間を出る。
城門脇には既に騎馬兵10人の武士と弓兵50人、竹槍兵40人、竹束を背負っただけの盾兵40人の農民兵がいた。
理想は重装歩兵による
「夕方までには予定地まで行くぞ」
「「「「「応」」」」」
志道広長さんの言葉に150人が応える。
何度かの小休止を取って、冠川が望遠鏡で見える場所にまで進出したのは日が暮れる前だ。
「いました。食事中です」
望遠鏡で炊事の明かりを見つけた俺は志道広長さんにそう報告する。
「そうか・・・こちらも食事だな英気を養うように伝達」
「はっ」
志道広長さんがもう一人の副官に命じると、副官は小走りに輜重隊に向かう。輜重隊といっても鎧櫃をふたつ横に並べたような木箱を担いだ人足のことだが・・・
人足がやってきて木箱を開ける。木箱の中には熱した石が敷き詰められており、その上には焼いた
「いーもいーも」
志道広長さんが壊れた(いまさら感)。
-☆-
「志道さま。殿の先触れが到着しました」
日が変わり、東の空が完全に明るくなった頃、多治比猿掛城の方角を見張らせていた斥候が一人の兵士を連れて戻ってくる。意外に早い。
兵士からの報告によると、殿の陣触れに対し、毛利本家は異母弟の毛利元綱さん。一門衆の桂元澄さん坂新三郎さん志道広良さん。
家臣の井上元兼さん渡辺勝さん福原貞俊さん赤川元保さん粟屋元国さん児玉就兼さんを筆頭とした700人。吉川家からは吉川経基さん宮庄経友さんが率いる援軍が300人。これに元就さまの本隊150人とここにいる150人の合計1300人。
対して冠川の陣地にいる熊谷元直隊は推定600から800人。掃討するには十分な戦力差である。元就さまの率いる主力は、ここから東に18町(約2キロ)の場所にあと半刻(約1時間)ほどで集結する予定らしい。俺たちの隊は、冠川の陣地から大きく南に迂回したのち、熊谷元直隊を側面から攻撃する予定だ。
法螺貝の音が鳴り響き、わーわーという鬨の声が周辺に木霊する。俺は望遠鏡を覗き、元就さまの隊が戦場に到着したことを確認する。
「志道さま。殿の隊が到着しました」
「よし。更に回り込むぞ」
伝令を受け志道広長さんの命令で、竹束を構えた盾隊を先頭に部隊が敵陣の側面に向かって前進を始める。それに続くように竹槍隊、弓隊が移動する。騎馬兵は迎撃・追撃に備えてやや後方で待機だ。
熊谷元直の籠る陣に、毛利・吉川軍からの矢が雨のように降り注ぐ。ジリジリと、毛利・吉川軍は戦線を陣へと押し込んでいく。
確か熊谷元直は自軍と毛利・吉川軍との戦力差を過小評価して、馬鹿正直に正面からの攻撃に終始するんだっけ?
あ、陣地から馬に乗った兜首が飛び出してきた。あれが熊谷元直かな?山中成祐か板垣繁任かもしれないが・・・俺は志道広長さんに視線で合図を送る。
「あの兜首が横腹を見せたら矢を射掛ける。よし、いまだ!」
「はっ」
志道広長さんの合図と同時に弓兵が立ち上がり、兜首に矢を射掛ける。
ドウ
何本かの矢を受け、兜首が落馬した。
「うぉおおおおおお」
一際大きな槍を担いだ兜首の騎馬兵が落馬した兜首目掛けて突っ込んでくる。あの槍は・・・宮庄経友さんだな。
「宮庄さまぁあああああ。出来れば捕縛してくださ~い!貴重な武将ですよ!!」
俺が大声で叫ぶと、大上段に槍を振りあげていた経友さんはニカっと笑い、槍の石突で兜首、熊谷元直の胸を突く。
「敵将、熊谷元直、この宮庄下野守が召し捕ったぁああ!勝鬨をあげろ!!」
「「「「おぉお!!!」」」」
戦場に大声が響いた。
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