第4話 俺のゴッドアイアース

1514年(永正11年)2月


 廃村は屋敷ひとつと土蔵を残して完全に更地にしてしまう。季節は冬。畑を耕す時期ではないから他にすることがないというのも大きい。そうそう井戸が落ち葉などのゴミを攫っただけで使えるようになったのは僥倖だ。


「ガチャターイム!何が出るかな、何が出るかな、ちゃらぁららら、ららららぁ、ぽちっとな」


 怪しいリズムを口ずさみながら俺はガチャ箱のボタンを押す。


がしゃん


 出たのはRニホンオオカミ。どうやって出たのか?突っ込んではいけない。いまさらだ。


「おん」


 ぐるぐると俺の足元を尻尾を振りながら駆け回る。かなり従順な成狼。これはいい旅の道連れ。狩りも捗るだろう。取りあえず首に絹の布を巻きつけて飼っていることをアピールしよう。


「ロキ行け!」


 新しく仲間になったニホンオオカミのロキに命令を下す。やがてガザガザど藪が揺れ、雉が飛び出す。


「ふん」


 ケッ!


 小刀を投げ雉を仕留める。丈八蛇矛?あれは狩りに使うモノじゃないです。ああ、切実に弓と矢が、ガチャで欲しい。ガチャなら弓術スキルの巻物が手に入ってスムースに狩りが出来るはず。

 雉の首を刎ね逆さに吊るし血を抜く。その後羽を毟り、腹を裂いて内臓を取り内臓はロキに与え、羽はアイテムボックスに投げ込み肉を焼く。

 Web小説お約束の調味料のない食事という事態は、廃屋のひとつにあった壺に入った塩を発見したことで何とか回避しているが、そろそろ底をつくな。

 アイテムボックス内に溜まったイノシシやウサギの毛皮。雉の羽の数を数え、ガチャで出た日用雑貨がある程度あるのを確認して村を降りて買い出しすることを決心する。


 まずアイテムボックスからタブレットを取り出して起動させる。画面には、齧られて芯だけになったリンゴのロゴが浮かび上がる。たぶんあの会社に対するオマージュ。

 このタブレットは、俺のいた地球のインターネット環境に接続できる端末。ただ、検索、閲覧出来るのはえらく情報が偏ったウイキペディアと俺のグー〇ルアースならぬゴッドアイアース。

 ゴッドアイアースは、簡単にいうと神さまの眼を通したグーグ〇アースの上位機能アプリ。俺が歩いた場所を中心に半径5キロ以内と範囲は限定的だが、地上の地図が航空写真で見るように検索できる。レベル1と表記されているからいずれ範囲も広がるだろう。多分。


 ゴッドアイアースのアイコンをタップして、ゴッドアイアース起動。タブレットに村というかポツンと一軒の家と蔵を中心に画像が広がる。そして俺が足を踏み入れていない、つまり検索してない部分は、俺がいた世界での地図が、灰色地に白い線で表示されてる。

 俺のいた世界の地図では開発され過ぎて地形が違うことがあるからブラインドされているのは実は非常に便利だ。とりあえず毛利元就の居城である多治比猿掛城と宗家の居城である吉田郡山城を見に行こう。


 丈八蛇矛を片手に、道なき山の道を突き進む。しかし今年は雪が多いので移動が物凄く大変だ。ただ、体幹と足腰がガンガン鍛えられる。耐寒というスキルがあっという間にカンストしたよ。いや、さすが小氷河期。寒さが半端ないわ。湯たんぽ替わりのロキがいて助かったよ。


 なるべく未踏破域を潰すように歩いて二日。多治比猿掛城の城下に到着した。


「すみません」


 商家らしいところを覗き込み声を掛ける。


「はいなんでしょう。ひぃ」


俺の風貌とロキを見て、店の男が悲鳴をあげる。失礼な。


「山で猟師をしている者ですが、物々交換してくれるところはありますか?」


 ゴトンとワザとらしく背負っていた葛籠を降ろす。


「ああ、ええ。うちでも扱いますよ」


 俺が葛籠から解体した雉を3羽ほど取り出すと男の顔色が変わる現金だな・・・


「塩が欲しい」


「塩か。兄さんなら香川氏の八木城の城下まで行った方が安く手に入るけどどうする?うちなら600匁(2キロ弱)で引き取るよ?」


「もうちょっと、なんとかならない?」


「うーんそうだね。何が欲しい?」


そう言われて周りをぐるりと見回す。


「あ、あれがいいです」


『交渉術がレベル1になりました』


 あ、対人スキルきた。

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