第6.2話

 とある建物の、とある部屋。

「所長さんよ、あんたに聞かにゃならんことがある」

 データチェックに勤しむ白髪の男の背後。

 腕組みした背広の男から発せられた言葉はとげとげしい。

「……何かね」

 白髪は椅子に座ったまま振り向きもしない。

「なぜ姚一家の男を殺させた」

「異なことを。Setembro九月を見た以上、生かしてはおけまい」

「俺が言ってるのはやり方だ! 餌もそうでない奴も一緒くたに! わざわざ人目のつくところに晒しやがって……」

「やり方はすべて彼に任せている。実際足はついていないだろう?」

「ふざけるなよBurroロバ野郎! ここに捜査が入ればあんたもあんたの研究もおしまいなんだぞ」

「それは君たちも同じだろう? ならばせいぜい努力して隠蔽したまえ」

「この……」

「……そこまでにしていただきましょう、カニサレス様」

 背広が振り上げた手は、いつのまにか横にいたもう一人の人物に止められていた。

 感情のない瞳が、頭二つ上の距離からカニサレスと呼ばれた男を見つめる。

「……けっ。よくできた秘書だな、おい?」

「気が済んだら行きたまえ。私は彼を完成させるのに忙しい」

「……いつなんだ? いつ使えるようになる?」

「君の言う『使える』の定義が不明だが……そうだな、あと三人程度質のいい残響遺伝者モンストロを摂取できれば安定に届くだろう」

「三人……」

「そうだ。ここ最近の餌は全員外れだったからね……活きのいい異能者インビクが必要だ。当てはあるかね?」

「……わかった、探しておく」

「頼むよカニサレス。それが結局、君のためにもなる」

 背広の男は部屋を出た。

 ……所長の才能は疑いない。奴はいずれ必ずあれを完成に導くだろう。

(しかし。そうなった時、奴や俺たちは……あれを制御できるのか?)

 今ですら。彼は自由すぎるほど自由だというのに……


 Setembro九月27.『27番目の九月』。

 痕機関スティグマタの負の遺産。

 12人の聖別者の、失われた最期の欠片。

 

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龍殺颶風娘(仮) ゆきむらゆきまち @yuki-yukimura

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