第6.1話

 公園から少し離れたビル街の狭間。

 さゆらは今にも朽ち果てそうな雑居ビルの前に立っている。

「公園にいたお爺ちゃんはこっちの方角になんか飛んでくのを見たって言うけど」

「なるほど、ここは怪しいですねえ」

 隣で頷く久々原。

 普段公園で寝泊まりしていたその老人は市警を嫌っており、マスコミにネタとして売り込むつもりだったのだという。しかし今回の事件、市警は徹底した情報封鎖を行っており、死者たちも猪の被害者と意図的に混同して報道されていた。

 故にマスコミも廃ビルの中ならともかく屋上を調べようとは思わない。

「でも市警はさすがに調べたんじゃないの?」

「彼等は猪やそれに類する生物を探していたのであって、ヒト型の誰かやその痕跡を探していたわけではないですからねえ」

 石室さんの意見はあくまで個人的なもののようですし、と久々原。

「焼夷さんも、空飛ぶ化物は普段はヒト型の異能者インビクだと思ってるの」

不定形の化物。それは逆に言えば、普段はどんな姿でも在り得るということ。

「可能性としてはそれが一番高いと思っていますよ……まあ、とりあえず入ってみましょう」

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