第3話

 ビルの屋上から「 」は睥睨する。

 観察し分析し認識する。

 ––––この街に、同胞はいない。

 獣はいる。ヒトもいる。異能のものもいる。

 だがしかし、「 」の同胞はいない。

 

 ––––先日、獣を殺す影を見た。

 あれは、ヒトではない。獣でもない。

 黒い風の如く捉え難い異能のもの。

 あれは同胞ではない。

 だが––––美しい?

 そう、「 」は己に問うた。

 わからない。

 下界にはヒトが集まっている。

 「 」の食べ残しを調べている。

 「 」は考える。

 何故、あれを喰い殺したのだったか。

 思い出せない。

 ––––嗚呼。

 「 」には、欠けているものが多すぎる。

 胸の奥に大きく空ろな穴が開いている。

 この穴を埋めなければならない。

 同胞。記憶。目的––––そして大切だった何か。

 思い出す。取り戻す。失ったものを。

 ––––そう、「 」は何かを失ったのだ。

 知らなければならない。

 黒い風のことを考える。

 あれを探そう。近くで見てみよう。

 そして喰べてみよう。

 風がこの穴を、吹き抜けることがあるなら。

 あるいは、その時––––




 

 

 

 

 

 

 

 



 




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