第2話
柊探偵事務所は那古野旧市街の外れ、築50年を越えようかという雑居ビルの2階にある。エンダー禍も残存戦争の荒廃も瀬戸内紛争の騒乱も乗り越えた建物だが、さすがに老朽化は否めない。
現在の入居者は探偵事務所を含めてわずか三軒。屋上と最上階は立ち入り禁止、エレベーターも使用禁止––––正直、いつ取り壊されても不思議ではない。
石室はインターホンを鳴らすと、返事を待たず扉を開けた。
いつものように鍵はかかっていない。
正面すぐに応接室があり、右奥に給湯室とシャワー、トイレ、そしてその奥に休憩室がある。他いくつかの部屋を資料室や倉庫として借りているようだが、そちらに入ったことはなかった。
応接室のソファーでは少女が寝そべって携帯端末をいじっている。
「邪魔するぜ探偵助手。昨日は害獣駆除ありがとうよ」
「……こんにちわ。どういたしまして」
寝たまま平板な声での挨拶、鼎さゆら。もう慣れた。
「所長も久々原も留守か? ひとつ追加の依頼があったんだが」
「……所長は先週から宇都宮に行ってる。焼夷さんは買い出し」
「…待たせてもらうぜ。そういや、昨日のアレだが––––」
「結局なんだったの、あれ」
「一応遺伝子上は猪…というか野生化したブタだったらしい。大きさは桁外れだったがな」
「ふうん……なんで市街にいたの」
「それがわからん。大型の食用豚を飼育している牧場は山のほうに行けばないことはないが、そこから脱走したという話は聞かん」
「誰かが連れてきた?」
「あるいはな。港か、大阪か、あるいは日本海側から…だとしても、あれほど狂暴化していた理由はわからんのだが」
「……ふうん」
話が途切れたところで、買い出しから帰ってきた男が扉から顔を出した。
「おや、石室警部。今日はどういったご用件で」
「柊さんはいないんだって? じゃああんたに言うしかねえな」
中部広域市警那古野本部・警備課異能対策班所属、石室現。
その仕事は異能犯罪者の捕捉から今回のようなアンノウンの駆除まで多岐にわたるが––––彼の手に負えない案件でも、柊探偵事務所に投げればどうにかなる、と。
「もう一匹、探してほしい化物がいる––––今度はヒト型だがな」
そう思われているらしかった。
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