龍殺颶風娘(仮)
ゆきむらゆきまち
第1話
鼎さゆらは考えない。
ただ眼前の獣を殴る。叩く。殴って叩いて刻んで擂り潰す。
その右手には何の変哲もない鉄管。
獣は大きく、素早く、剛い表皮を持っていた。
小口径の拳銃弾など軽く撥ね返すであろうそれを––––
しかし鉄管は無造作に抉り裂く。肉ははじけ飛び、獣は咆哮する。
鼎さゆらは止まらない。
ただ眼前の獣を。一秒でも速く。殺すために。止めるために。
––––殴り続ける。
「さゆら君、そこまで」
後ろから声がかかってからも、きっちり十秒間殴り続けていた。
「……もうそいつはどこにも行かないよ」
––––––––。
ややあって、緊張を解いたさゆらは振り返る。
菫色の瞳。色の抜けた灰色の髪。
黒一色の軽装の下には、薄白い肌とスレンダーな身体がある。
「……焼夷さん、遅い」
人食いの獣であった血だまりと肉塊を前に、少女は無感動な眼で答えた。
「君の健脚についていくのは大変なんだよ」
「まだ若いのに」
「まあそう言わないで……じき警察が来る。あとは任せよう」
「立ち会わなくていいの」
「これの担当は石室警部だ。そもそも今回は彼からの依頼だしね」
「…そう」
ならいい、と鉄管を一振りしてから、焼夷と呼ばれた男からタオルを受け取る。
「得物より顔を拭いたほうがいいね。血と泥でひどいもんだ」
「いつものことだし」
そういいつつもタオルで顔をもごもごする。
「……シャワー浴びたい」
そう呟いた声は、年相応の少女のものだった。
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