第6話

ある家の前に立ち、先生は、逡巡する。


抱えられたボクにも、その躊躇いが伝わってきた。エイッ。


押してやった。


インターホンを。


!!!


程なくして、声がする。


ボクは眠い。


懐かしい気持ちが、ボクを包んだ。



  *****



『やっと逢えたね』



  *****



何があったかボクは知らない。


ただ懐かしい夢を見た。


手に手を取って、暖かい視線を交し合う、ふたり。


ボクは知ってた。


今。


ここで。


よかったね、とボクは思った。


ボクのいた掃除用具入れの、うえが、まだ綺麗でピカピカだった頃の。


思い出した、ふたりの姿。


なぜか知らない。


ただ時に、物事は、気持ちを量る。


まだ時機じゃない、っていって突っ返す。



  *****



「やっと逢えたね」


「うん、長かった」


ボクは、髭がビーンと震えて、顔が、くしゃくしゃと泣いていた。


「ありがとう」


「うん、ごめんね」


先生の手から離れたボクは。


懐かしい手に抱かれて、先生が隣を歩く。


まだ生まれてもいなかった、ボクの、気持ちとか、そーゆうの。


先生と、同じ。


キラリ。


生きていく、今と、これから。




<了>


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『③/⓷ らくがき★キラリ』 ぽふ、 @a-piece-of-harmony

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