第3話 雨にも負けず風にも負けず

 凍華は本当に変わった人だった。いや、今まで会ったことがない人種と言った方が適切かもしれない。あの家に入居することが決まって、なぜか凍華は

「家の前でいつまでも立ち話もなんだし、お茶でもしようか。」

と言って、近くのカフェに入った。凍華と如月はコーヒーを、一葉がココアを頼んだところで、凍華がおもむろに

「では、呼び名を考えるか。」

と言った。呼び名・・・。ルームシェアするに先立って、まずは呼び名から考えるのはなかなかないケースだろうな、と如月がぼんやり思っていると、凍華が

「じゃあ、一葉、君は如月と私をなんて呼びたい?」

と言うので驚いた。

「家族の年少者に合わせてお互いを呼び合うのが日本では一般的だからな。」

「はあ・・・。なるほど・・・。一葉、どうする?」

「と・・・凍華パパと如月ママがいい。」

「えっ。」

「いいな。」

「なんで、水木さんはパパで、俺はママなんだ?」

「・・・叔父さんはお料理上手だし、凍華さんは男の人っぽいしゃべり方するから。」

「あははは。確かに、この話し方は男口調だな。私はそれでいいよ。さっきから呼び捨てにしていたが、一葉は一葉でいいか。」

「はい。」

「じゃあ、決まりだな。まあ、君が料理上手とは驚いたな。私はあまり作らないんだ。一葉、如月ママは何お料理が一番おいしい?」

「全部上手だけどね、魚の煮つけがおいしい。」

「渋いな。でも、私も食べてみたいよ。」

 ママは若干、不服だが、一葉と凍華がうまくやっていけそうで如月は安心した。なにせ、一葉がこんなに話しているのを見たことがなかった。

 凍華が東大を出て、超一流企業に勤めながら小説を書き始めたが、小説に専念したくなって三年で退社。一年ほどアルバイトで食いつなぎながら、あの『ファクターアクトドア』でデビューした。(コミカライズされてて、如月はそっちは読んだことある)三十歳。彼氏はいない。という話を聞いて如月は今更ながら、本当に今まで周りにいなかったタイプの人間だと感じた。何でも持っている、成功者という感じだ。

 「如月ママと一葉は何者なんだ?」

凍華が面白そうに聞いてきた。

「ママって、呼ばれるのちょっと恥ずかしいんですが・・・。」

「仕方ないだろう。さあさあ、君たちは何者?」

「実は少し前に・・・。」

 凍華に睦月の話をした。一葉の話をした。そして、最後に自分の話。この春から白駒大学経済学部の四年生の二十一歳で、今就活中で、ファミレスとコンビニのアルバイトと親の遺産で暮らしていること。彼女もいない。

「わかった。じゃあ、君が料理をやってくれるなら家賃は取らない。掃除や洗濯などは当番制にしよう。一葉もお手伝いするんだぞ。」

「うん。」

 それからカフェを出て、あの家へ向かった。凍華がドアを開けて、

「ただいま。」

と大きな声で言った。それから、如月と一葉も

「ただいま。」

と言うと、凍華が

「おかえり。如月ママ、一葉。」

と言ったのだ。その瞬間、家中が一気に明るくなっていった。電気がついたわけではないのだが、なんというか、空気がぱっと明るくなった。誰も住んでいない家固有の、あのすえたような埃の匂いもしない。

 そこへウィーン、と急に機械音が聞こえてきた。そして、それはだんだんと近づいてくる。

「そうだった。二人はまだ見たことがなかったよな。」

凍華は音のする方を指さした。

「あれが、この家の土地神・・・精霊みたいなもんだ。大家さんって呼ばれている。」

凍華の指さす先には、丸くて黒くて無機質なお掃除ロボットが一台あるのだった。



 日本には八百万の神が住むという。それは物にも宿るとされ、また土地にも宿る。まず、初めて家を建てる際には地鎮祭を行うのもそういった考えが一因だ。そして、この土地もはるか昔から神が宿っていた。家が建てられ、人々が暮らし、家が壊され、また建てられ・・・と、人の営みが続いてきたのだ。しかし、普通の家と違うのは、土地神がその時代にあった姿をとって、度々この家に現れるという点だ。まあ、不思議なもので人々はそれさえも受け入れていた。ある時は子どもの姿、ある時は犬の姿、またある時は光の玉・・・と、そして、今回はお掃除ロボット。



 如月は大家さんを目の前にして、怖そうな姿でなくてよかったと思っていた。凍華の話しぶりから危険さがあまりなかったのも良かったのかもしれない。

「大家さん、如月ママと一葉だ。これから、よろしくお願いします。」

凍華がそう声をかけると、表面の液晶画面に

「ハジメマシテ。ヨロシク。」

と文字が表示された。

「コミュニケーション取れるんですね・・・。」

「そうなんだ。私も最初、大家さんと出会ったときは戸惑ったが、コミュニケーションをとれるなら、問題ないと思ってな。すぐに慣れるぞ。あ、ただ、どうしても必要な時だけしか話してくれないんだ。」

「はあ・・・なるほど。」

 一抹の不安を残しつつ、部屋の案内をされた。一階はリビングダイニングとキッチンが一つになっており、廊下をでると、向かいにトイレとお風呂場が別々にある。それから一部屋あるが、ここを凍華の仕事部屋とした。二階は四部屋あるので、凍華、如月、一葉の三部屋と、物置部屋とすることとした。

 明日、荷物を運ぶ話をしていると、インターホンを鳴らす音がした。

「神田さんかもしれない。」

そう言って、玄関のモニターを見ると、凍華と同じくらいの年の男性が立っているのが見えた。如月は、彼氏はいないと凍華は言っていたし、はて、何者だろうかと思っていると、玄関を開けて凍華が神田を招き入れた。

「やあ、神田さん。どうぞ、あがって。今、シェアハウスのメンバーがいるんだ。」

「そうなんですか、ではお邪魔します。」

 リビングに入ると、神田の目に入ったのは若い男と小学生くらいの女の子だった。

「え、凍華・・・。シェアハウスのメンバーってこの二人ですか。」

「そうだ。大学四年生の葦原如月ママと、その姪で小学二年生の一葉だ。」

 神田は激しいショックを覚えていた。先日、凍華から面白そうな家庭小説が書けそうだと話をされた際に、そのために不思議な家に引っ越すと聞いていたが、まさかまさか、子どもはともかく、若い男と暮らすなんて・・・。

 如月はいたたまれない気持ちになっていた。明日の引っ越し、凍華もまだ荷物を運べていなかったので、凍華も越してくるということだったが、なぜか神田も手伝うと言い、如月を心なしかにらんでいるような気がするのだ。一葉や凍華に対しては普通のようだから、気のせいかもしれないが・・・まさか。

「はあ・・・。」

一つため息をつき、明日からのシェアハウスにいささか不安を感じる如月であった。

 不安は的中し、どうやら、あの神田さんは凍華さんが好きなんだと、如月は確信していた。凍華と二人きりになりそうになるとどっからか飛んでくる。荷物を運び終えて、昼食を如月と一葉で買いに行くと言って二人だけになった。如月が行きたいところだったが、凍華が謎の気遣いを見せ、

「二人は重いものを運んでくれたからな。昼食を買ってくる間、休んでいてくれ。」

と、さっさと一葉を連れて行ってしまった。

「なあ、君、大学生なんだって?」

「はっはい。今は四年生で、就活中で。」

慌ててしまって、なかなか要領の得ない回答で悲しい。

「そうか。失礼ながら、ご両親は何をしているんです?それに姪御さんのご両親はどうしたんですか?」

「あ、あはは。そうですよね。実は・・・。」

 如月は自分と一葉のことについて簡単に説明した。

「神田さんが、不思議に思うのも無理ないですよね。あの、凍華さんには危害を加えるとかそんなことないですから。」

「それは当たり前です。・・・そうか、辛い話をさせてしまったな。」

少ししんみりしてしまったが、ここで如月はあの話を持ちだした。

「あの、僕からも確認しておきたいんですが、神田さんは凍華さんのことが好きですよね。」

「なっ。」

「あの、ほぼ初対面で普通は言わないですけど、僕は凍華さんを素敵な人だとは思いますが、恋愛的な意味で好きになるとかないです。」

 対神田さん用に友達にもらったアドバイスで、早めにそんなつもりはないと宣言しておいた方がいいと言われていた。最悪、彼女役もするとまで言ってくれていた。いい友達を持ったなあと如月は感謝し、そのアドバイスに従ってみた。

「そ、そうか・・・。余計な心配をかけてしまったみたいだね。申し訳ない。・・・確かに、俺は彼女を好きだ。でも、そのことで彼女に余計なことは背負わせたくないんだ。このままの関係で作品を、彼女を見守りたい。だから、このことは内緒にしてくれるかい。それから、改めて、彼女の事よろしく頼む。彼女に・・・まあ、きっといいことだと思うんだ。このシェアハウス生活は。」

「はい。わかりました。男の約束ってことで。」

「ははは。生意気。」

 神田と如月はなんだかんだで打ち解けられた。



 「一葉、ご飯できたぞ。」

 凍華は思いもよらない声で目が覚めた。自分ではない誰かが、自分以外の誰かのためにご飯を作ってあげている。もう何年も誰かと暮らしていない凍華は、不思議な気持ちになっていた。自分の部屋を出て、一階に降りると、そこにはダイニングで朝ごはんを食べる如月と一葉の姿があった。

「すいません。起こしてしまいましたか。」

「ああ、別に構わない。ちょうど起きようと思っていたんだ。」

 そう言って、テーブルに目を移すとご飯とお味噌汁、それにサラダと焼き魚が並んでいた。

「よかったら凍華さんの分もあるので、食べてください。」

 いいにおいがする。生まれてから、こんな朝のにおいは嗅いだことないのだが、自分のどこかにこれは朝のにおいなんだと刻まれているかのように、温かい気持ちになった。

「ありがとう。」

 凍華は微笑んで、席に着いた。そして、

「いただきます。」

と手を合わせた。

 如月は四年になって授業数が減った。その分、就活がきつい。朝は一葉と家を出て、どこかへ就職試験を受けに行き、空き時間は履歴書やエントリーシートを書くというのが最近の一日だ。

凍華が朝も食べるというので、凍華の分も用意しておいたが、思いのほか嬉しそうに食べてくれた。好き嫌いも少ないようだし、料理の手間は心配ないようだ。それに、朝、出かけがけに

「いってらっしゃい。」

と、凍華に声をかけてもらうのはうれしい。行きもだが、あの家で凍華は仕事をしているから、帰りもきっと凍華が待っている。一葉にはいい環境なんじゃないかと思う。学校生活の方は・・・転校先でいじめられたりしていないだろうか。不安がよぎる。

「いってきます。」

如月と一葉は二人で家を出た。



 如月の心配をよそに、すでに一葉は親のことでからかわれてしまった。転校して一週間くらいは転校生としての物珍しさから、男子女子問わず話しかけられたのだ。しかし、一葉があまり感情表現が得意ではなかったのと、彼女が住む家の事情が早々にクラスのリーダー格の男子、沢村勝にばれたのがいけなかった。

 ある日の放課後、一葉が帰る支度をしていると、勝に話しかけられた。

「なあ、お前んち、お化けでるんだろ。」

「・・・お化けは出ないよ。」

 一葉はちゃんと返事をした。お化けは出ないが、大家なる精霊はいる。うん、間違ってはいない。冷静に返され少し驚く勝だが、こんなことでひるむ小二男子ではない。

「嘘つくなよ。いつも母ちゃんが言ってるぞ、あそこはお化けが出るから人がいつかないんだって。なあ、お前んち行かせろよ。俺がお化け退治してやる。」

 炸裂した小学生特有の自己中おせっかいに、一葉はため息をついた。

「だめだよ、如月ママがいない日は家に友達呼んじゃいけないって、言われてるもの。」

確かに如月は口を酸っぱくして言っていた。この家に俺がいないときには友達は呼んではいけないよと。如月は絶賛就活中なのと週5のアルバイトで、めったに昼間家にはいない。つまり、遠回しに友達は呼べないと言っていた。一葉はこのような大人の事情が悲しいかな、小さいころからあの母に振り回されてきたために理解していた。

この話は終わったとばかりに、ランドセルを背負って教室を出ていこうとする一葉についに勝は言ってしまった。

「お前んち、変なんだろ。やたら若い父親と母親と住んでるって母ちゃんが言ってた。母親の方が若い男と不倫して、逃げてきたんだろ。母親はあまり外で見かけないし、父親の方はなんかコンビニとかでバイトしてセイシャインじゃないみたいって、母ちゃんが見かけたんだぞ。」

 この言葉に教室に残っていた子供たちはいっせいに静まり返った。いくら小学生でも、言ったらいけないことの分別はつくお年頃だ。

場が凍り付いたことなど気が付かない様子で、言ってやったとばかりに、得意げな顔をしていた勝だが、後ろを振り向いた一葉をみて少し、顔をひきつらせた。

「沢村君が家に入れるなら、遊びに来てもいいよ。入れるならね。」

一葉はにこりとしてそういうと、さっさと出て行ってしまった。教室に残された勝たちはその言葉の異様さに子どもながらに恐怖していた。

 一葉は確信していたのだ。『我が家』は住む人の感情に影響される。一葉が快く思っていない相手を迎え入れはしないだろうと。この間、泥棒が入ろうとして大家に撃退されていたのを見たし、一葉はあのルールをちゃんと理解していた。

 その日からあまり話しかけられなくなった。無視やいじめというより、触らぬ神にたたりなし、というような感じだ。

そんな一葉に唯一話しかけてくれるのが、近所に住む長谷川結衣だ。結衣はとくに、一葉のその不思議な事情を意に介さず、休み時間に遊びに誘ってくれたり、一緒に登下校をしてくれる。

前の学校ではこんな友だちはいなかったなあ。って、一葉は時々思い出す。それはあまりいいことではないから、思い出したくないけども。

一葉はうまく感情を表現できないから、何考えているかわからないって不気味に思われて、大人にもこどもにも遠巻きにされやすい。何か言われて、すぐに返すとひどいって言われて、よく考えないとって考えていると遅くてみんなにおいて行かれてしまう。だから、感情に出すのを半ばあきらめていた。けれど、如月や凍華は違っていた。

 如月は一葉が言葉にするのを待ってくれた。一緒に暮らすのに不安がっていないか、いつも心配していたから。凍華は促してくれた。言葉にしなよって。この間、学校から帰ったとき、凍華がコーヒーをキッチンで入れながら、おやつのクッキーを焼いていた。

「一葉、おかえり。」

 そのとき、一葉はただいまって言いたかったが、いいにおいがするとも言いたかったのだ。早く言わないと、ただいまが遅くなる気がするし、かと言っていいにおいもなくなるような気がして、言葉が出なくなった。すると、一葉の様子を見ていた凍華が

「ゆっくりでいいよ。焦らないで、言いたいことは言っていいんだよ。他人や自分が傷つくようなことを言わないってルールを守れば、発言の自由があるのだから。一葉は優しい子だな。他人を傷つけたくなくて、自分が黙って傷つくなんて。ふつうの子どもなんだから、傷つく必要なんてないんだよ。」

と言ってくれたのだ。一葉はママやパパからそんなこと言われたことがなかったから、驚いた。だから、ゆっくり、言いたかったことを話した。

「トーカパパ、ただいま。いいにおいがします。」

「そっか。それは良かった。クッキー食べよう。手を洗っておいで。」

 その日から、一葉は段々と言いたいことを言えるようになってきた。勝の悪口なんてへっちゃらだ。



 「おはよう。キサ。ねえ、この間の男の人どうなった?」

如月は久しぶりにキャンパスで、あの助言をくれた友人吉沢早苗に会った。

「ああ。ほんとアドバイス、ありがとう。助かったよ。」

「キサ、フリーだからめんどくさくなるんだよ。彼女いますって言えば一言でまあ、終りなのに。」

「サナ、お前、それはほんとにいればいいけど、ほんとにいないからしょうがないだろっていうか、僕の柔い部分をぐさぐさ刺さないでくれる?」

「ごめんごめん。」

「あ、バイトの時間だ。じゃあ、サナ、またな。」

「うん。バイ」

如月は急いでバイト先のコンビニへ向かって行った。その後ろを見送る、早苗。の後ろからくる友人。

「まだ、葦原君とくっつかないの?」

「わっ。驚かさないで。久美・・・。」

「葦原君も鈍感すぎでしょ。彼女のフリまでするって言ってるのに。」

「わーやめてやめて。恥ずかしすぎる。もう、過去の事!!!」

「さっさと、告白したら?」

「できない。キサ、今姪っ子ちゃん預かっているし、ルームシェアもしてるんだよ。迷惑かけられないよ。」

「ルームシェア?誰と?」

「年上の女性だって。すごくかっこいい人らしいよ。」

「え、ちょっと早苗さん?それその女性と葦原君くっつくとか・・・。」

「えー大丈夫だよ。キサに限ってそんなことない。」

「・・・なんか、あんたら似た者どうしかも。ちょっと馬鹿らしくなってきた。」

 如月は早苗をはじめとして、仲の良い友人もおり、大学では楽しい生活を送れていた。あとは、内定ゲットすればいいのだが・・・と、思いつつ今日も如月はバイトに励む。



 「如月ママよ、ちゃんと話そうと思っていたんだが、一葉の気持ちは気づいている?」

その日の夜、バイトから帰ると如月はリビングで凍華から呼び止められた。一葉はもう寝ている。

「えっと、気持ちって・・・あ、まさかいじめとか?」

「いや、毎日登下校を一緒にする友だちができたみたいだし、帰っていてからの様子をみるとそれはないと思う。それではなくて、親との関係だな。私と君の呼び名を決めるとき、なぜ、一葉は私をパパ、君をママにしたと思う?」

「え?それは凍華さんが男性口調で、僕が料理ができるから・・・。」

「君はあほか。そんなもんは賢い一葉が考えた後付けだよ。ママじゃない女性をママなんて呼びたくないし、パパじゃない男性をパパなんて呼びたくないだろ。」

「あ・・・。」

「君と一葉の言動から、その一葉の両親はなかなかの人物だと思うが、結局どんな親であれ、子どもは親が好きなんだな。こればっかりは仕方ない。」

「・・・寂しがっているんですかね。一葉。」

「・・・私たちではうめられない寂しさもあるだろうな。」

「話してくれて、ありがとうございます。」

「ん。まあ、二人とも大切なルームメイトだからな。気兼ねなく、相談してくれ。あ、そうだいいことがあったぞ。『ファクターアクトドア』続きが書けるようになったんだ。」

「え!よかったじゃないですか!」

「これは如月ママと一葉、二人のおかげだぞ。いつも如月ママが美味しいごはんと、一葉がかわいい元気な姿を提供してくれるから、こう、心身ともに健やかっていうか。」

「なんですかそれ。でも、よかったです。」

凍華の言い方がおかしくて一葉は思わず吹き出してしまった。

「あ、神田さんもいつも支えてくれているからな、神田さんのおかげでもあるな。」

「神田さん、引っ越しも手伝ってくれましたよね。よかったら、今度御礼とかしてみたら、どうですか?こう、二人でご飯にいくとか。」

「おお、それはいい考えだ。今度、打ち合わせあるから、誘ってみるよ。」

 お、余計なお世話かもしれないけど、なかなかナイスアイデアじゃないか、と如月は自分をほめ、神田さんにいい仕事したでしょ、って念を送っておいた。


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