花薫る季節は過ぎる

 放課後、榊勇也は赤羽礼と屋上に来ていた。あの花の匂いは屋上まで届いている。


「それで昨日の返事を聞かせてもらえるかな。」

 くそ、見れば見るほど美少女にしか思えない。

「その前に1つ教えてくれ。俺たちの体の変化をお前は受け入れたのか?」

「 だって仕方ないじゃん。見てよ、胸だって膨らんできた。」


 赤羽礼はワイシャツのボタンを外し胸を晒す。そこにはわずかに膨らんだ胸があった。明らかに男の胸とは違う。女のそれである。


「そんな事より昨日の答えを聞かせてくれ。」


 赤羽礼は勇也に一歩近づく。勇也は一歩引く。


「おかしいだろ。何でそんな簡単に受け入れられる。半年前まで男同士で一緒に遊んでた仲じゃん。」

「この気持ちはもう抑えられないんだ。」


 赤羽礼は勇也に一歩近づく。勇也は一歩引く。


「そもそも勇也ぐらいだよ、現実を受け入れていないの。」

「それがおかしいと言っているだろ。」


 赤羽礼は勇也に一歩近づく。勇也は半歩下がる。


「礼、お前のことは好きだ。ただ、それは友達としてだ。今まで通り友達として付き合えないのか?」

「無理だよ、もう。」


 赤羽礼は勇也に一歩近づく。勇也の手を取り自分の胸に押し当てた。

 わずかに膨らんだ胸越しに礼の鼓動を感じる。激しく脈打つそれは嘘偽りのない感情を表していた。

 勇也は礼の手を取り自身の胸に押し当てた。


「お前はいいのか。俺の胸だって膨らんできた。男とも女とも言えないこの体を受け入れられるんだな。」


 屋上から一望できる町にはあの花が咲き乱れている。黄色いその景色はこれからの世界を暗示しているかのようだった。

 


 

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