万事塞翁が馬

 どうしてこうなった!

 徐々に変わっていく体の変化を受け入れろ、なんて理不尽きわまりない。

 最初こそ政府を上げての対策もしていたけれど成果なし。ホルモンバランスがどうとかニュースでやっていたけどよくわからん。ただ1つ言えることは、俺の男性器の下に女性器ができた。それだけだ。


「勇也、おはようー」

「おはよう、赤羽。」

「それで昨日の返事、考えてくれたか。」


 榊勇也は頭を抱えた。数ヶ月前まで友人と思っていた赤羽礼から告白されたのが昨日の事。もはや性別の垣根は無いに等しい。

 

「柚子~、今日もかわいい。私だけの柚子。」

「ユート、昨日は激しすぎだよ。」

「おい、学校では止めろよ、その話題。」


 こいつら、何で簡単に受け入れてるんだ。性も乱れすぎだし。

 恐る恐る、隣の席の赤羽礼を見た。耳を隠す位に伸びた髪。くっきりとした大きな目に長い睫毛。ふっくらとした唇には生意気にもリップを塗ってある。男子制服を着た女子にしか見えない。


「返事は放課後まで待ってくれ。お願いだから。」

「わかった。待ってる。」


 赤羽礼は微笑を浮かべて返答してきた。一々仕草がかわいいな、こいつは。


 赤羽礼との関係はいわゆる幼馴染という奴だ。礼は昔から美少年で通っていた。白い肌に小さな顔。それにあの大きな目に見つめられると同性であっても勘違いをしてしまう。

 その為か、礼は引っ込み思案であった。回りの人々からの目線に嫌気がさしていたのかも知れない。ことある事に告白されたり、時には誘拐まがいの事件まで起きたこともある。

 俺と礼は不思議と馬があった。保育園の時には虫を追いかけたり、小学生の時にはサッカーをしたり。何をするにも一緒だった。

 中学生に上がると行動範囲も広がり、休みの日は決まって二人で出掛けた。店を見て回るだけだったけど、それでも毎回楽しかった。

 何で礼は俺といつも一緒にいたかは未だにわからない。あいつが望めばもっとスクールカースト上位のグループとつるむ事だってできたはずだ。


 俺も現実を受け入れるしかないのかもしれん。あいつの気持ちだけは無下にしてはならないと思う。

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