第8話

社会人3年目、今年から地元を離れて仕事をしている。

高校を卒業してすぐに働き始めた。まともな会社に入るのは向いてない気がして、洋服がすきという理由だけでアパレルに就職した。最初の1年はジョーもタロウも地元にいた。

2人とも成績もよくなくてジョーの親の知り合いの現場、いわゆる鳶の仕事に就いていた。

が、1年で運悪く会社の不景気で仕事がなくなった。ついてない2人だった。それからジョーはそのまま地元に残り、バーで働き始めた。タロウは1人で地元を離れて、学校に通って資格を取り、不動産会社で働いている、と聞いた。

タロウが地元を出てからは1度も会わなかった。連絡もあまりとらなかった。

ジョーは私が地元を出るというと、俺も出ると言い、いつの間にかバーの仕事も見つけてた。私とジョーは、いつも近くにいて、いつまでも変わらず親友のままだ。そして家族のようだ。

私が地元をでて1年が経とうとしている。

連勤が続き、疲れてとぼとぼと会社を出て歩く。

目の前に見たことのある後ろ姿を見つけて、少し早歩きでその背中に近づいた。

あ、この匂い。

「タロウ?」

ビックリして振り返るこの匂いのする人は、やっぱりタロウだった。

「えええ、ルイ?」

「タロウ~」

「うわ、ルイだ、え、ルイ?めちゃくちゃビックリした」

「うわってなによ」

「ルイ、久しぶりだね」

2年間も会っていなかった。

少し大人になったタロウが前よりかっこよくなったみたいだった。

「久しぶりとかなもんじゃない」

「そうだな」

「なんでずっと帰ってこなかったの」

「いや、ごめん。なんか甘えちゃう気がしてさ」

「連絡も全然してくれなかった」

「ごめんよ」

「でも、なんか立派だね」

「え?そう?」

「うん、すごいスーツ似合ってる」

「そうかな、嬉しいな」

「私、この辺で働いてるんだよ」

「知ってるよ。ジョーから聞いてる」

「なんだ、知ってたの」

「うん」

「私は知らなかったな、タロウがこの辺だって」

「ごめん」

「なんで謝んの」

「はは、会えて嬉しいよ」

「また会おうよ。みんなで飲みに行こうよ」

「そうだな、行こう」

「私、ジョーのとこ行くけど、一緒に行く?」

「いや、俺は今日はいいや、明日も仕事だし」

「そっか、じゃあまた今度」

「おう」

「あのさ、タロウ」

「ん?」

「ちゃんと連絡してよね」

「うん、するよ」

タロウがぎこちなく返事をしたので、少し涙がでそうになった。


 文化祭当日。

朝からめちゃくちゃ楽しみで、俺は急いで学校に向かった。隣の教室を覗いたがまだルイは来ていなかった。校内放送が入り、一般人開放になりたくさんの人達が校内に入ってくる。

みんなワイワイ楽しそうで、俺もワクワクが止まんなかった。もう1回隣の教室を覗くが、ルイが見当たらなかった。近くにいたイクミに聞いたが見てないと言った。タロウもルイを探してると言っていた。

教室を出るとちょうどタロウに会い「ルイが来たら教えて」と言っておいた。

俺はいろんな女の子から写真を撮ってと言われたり、出店の食べ物もらったり、今日も一段とモテた。気が付いたら昼すぎになってた。

タロウのところに行き、「まだルイ来てねえの?」と聞くと、タロウは「こっちも聞きてえ」と言った。

「お前、最近ずっと一緒いたじゃん。なんか知らねえの?」

「知らねえ」

「なんだよ」

「え?なんだよ」

「なんかねえのかよ」

「ねえ。いや、ある、俺、昨日ルイに告ったんだ」

「は?マジ?お前って、、」

「嫌だったのかな、俺しくったかな」

「っふ。なんだお前、やるじゃん」

「なにがだよ」

「でも、ちげえよ。絶対違う。俺ルイに連絡してみる」

「ルイ、なにかあったの?」

「色々きちーことあったからかもしんねえ」

「は?どういうことだよ」

俺は一瞬嫌な予感がしてしまった。こないだの母親との喧嘩がいつもと違った。ルイはずっと落ち込んでて、悩んでた。ルイが最近おかしかったのを思い出した。

ルイに何度も電話をかけるが出ない。

「タロウ、わりい。チャリ貸してくんね?」

「は?」

「それとさ、ミカのとこ行ってやってくんね?あいつ待ってんだ」

「おい、なんだよそれ」

「たのむからさ」

タロウはチャリの鍵をポケットから出し「なんだよ」と言いながら貸してくれた。

ルイの家までダッシュでチャリを漕いだ。

ピンポンと鳴らすが返事もない、もう一度ルイに電話を掛けるが、また出なかった。

玄関のドアを開けると、鍵が開いていた。

「おじゃまします」

静かな家の中。

ルイの部屋に行くと、制服のブレザーのジャケットだけが無造作に落ちていた。

利久くんの部屋にも行ってみたがいなかった。

「は?どういうことだよ」

ルイに電話をかける。

出ない。

利久くんに電話をかけてみた。長い着信音に、諦めかけた。「はい。」出た。

「もしもし、利久くん、今日ルイが学校来てなくてさ」

「ジョー」

「え?なんかあったの?家行ったらさ、鍵も開けっ放しだし」

「ジョー、、、、俺達の母親が、、江崎病院に運ばれた」

「え?」

「自殺したんだ、、、、」

「は?ちょっとまって、どういう、、、」

「お前、江崎病院わかるか?」

「うん」

「来てくんねえか?タクシー代出すからさ、きてくんねえか」

「すぐ行くよ」

「すまんな」

俺は急いで自分の家までチャリを漕いだ。

玄関をものすごい勢いで開け、リビングに向かって叫んだ。

「母ちゃん!!!江崎病院まで送って!ダッシュで」

「ジョー!何やって、、、。あんたなにその汗」

「江崎病院まで、送って」

「なに?どういうこと、、?いいけど」

急いで車に乗り、江崎病院に向かう。

車の中で母ちゃんに、話した。ルイの母ちゃんが自殺したこと、何日か前に自分の目の前で酔っ払って帰宅したルイの母ちゃんがヒステリックを起こしルイと喧嘩して、ルイが何回も殴られたこと、それでルイの兄が母ちゃんを突き飛ばしたこと、ルイはそれからずっと口をきいていないことを話した。俺の母ちゃんは泣いていた。

それからスピードをあげ、病院に着いた。

俺は車を駆け下り、病院中を走った。

「ジョー」

「利久くん」

「すまん。ここまで来てもらって」

「母ちゃんに送ってもらった、ルイは?」

「向こうのほうにいる」

すぐに見つけた。

ルイがうずくまって泣いている。

もう11月なのに、制服のブラウス1枚姿だ。泣きながら震えてるルイの隣に座った。

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