第5話

「ルイ、利久くん元気?もう全然会ってない」

「元気だよ。昨日も会った」

「え、言えよ~俺も会いたかったのに」

「なに話すのさ」

「俺のこれからのこと聞いてもらうんだよ」

「あたしが聞いてるじゃん」

「利久くんの説教が聞きたいんだよ、前みたいに」

「もう説教なんてしないよ~」

「もうしてくれないか、、」

「でも、お兄ちゃんだったらなんて言うかな、今のジョーに」

「現実的だからな~お前と違って」

「うるさいな~じゃあもう何も聞いてあげないからね」

「うそだよ」

「ふ~ん」

「すねんなよ」

「すねてないよ」

「お前が1番いいよ」

「そうでしょ」

「うん」


 次の日、俺はルイを迎えに行った。

「ルイ、いつまで寝てんの」

布団をはがしたが、ルイが寒そうにしたのでもう一度布団を掛けた。

「ルイ、起きないの」

俺はベッドに腰を下ろし、ルイの顔を見ていた。頬を指で撫でた。

ルイの目はパンパンに張れていて、枕元にはティッシュがたくさん置かれてあった。

起きるのを少し待ったが、遅れそうになったのでルイの兄が「もう学校に行け」と言いに来たので、そうすることにした。

部屋を出る前にルイの額に2度口づけをした。

起きるか少し待ったがルイは起きなくて、そのまま部屋を出た。

 次の日も迎えに行った。まだ寝てるかと思ったらルイは制服に着替え準備も終わっていた。歩いて登校。俺はは何も聞けなかったし、なにも言えなかった。


昼休みはいつも、ジョーとタロウとミカと食べていたが、今日はジョーとミカのクラスが文化祭の準備で一緒に食べなかった。タロウと2人だった。

「ルイ、昨日は大丈夫だった?」

今日で何度目かのこの質問に飽き飽きしていた。

「ずる休み」

「うそだ、ルイがずる休みなんて」

「うそじゃないよ。ずっと寝てた」

それは本当だった。でも話題を変えたかった。

「タロウの弁当、いつもおいしそうだね」

「あ、うん、美味いよ」

「やさしいね、お母さん。こんなに具だくさん」

「うん、やさしい」

「いいなぁ、そんなの」

「あ、いや、あのさ、うそ。俺、母親いないんだ。いつも親父が作ってる」

「あ、うそ、ごめん、何も知らなくて」

「ううん、いいよ。大丈夫なんだ、ほんと」

「え、いや、ごめん」

「気にすんな、もうめっちゃ前だから」

「そうなんだ」

暗くなりそうで気まずかったがタロウは明るく笑った。

「ルイはいつも自分で作ってるんだよね」

「そう、いつも自分で」

「えらいな、食べてみたいな」

「やだよ~おいしくないし」

「でも食べたい」

「いや」

「そうか~」

と言って私の弁当箱を楽しそうにのぞいていた。

「ルイは、辛かったら言えよ」

なんとなく言われた言葉なのに、すごく重たく、深く感じた、泣きそうになった。

そんな私をタロウは優しく見つめ、自分の卵焼きを私の口の中に入れた。

「美味いだろ?」

「うん!超うまい!」

「またやるよ」

「やった~」

もう終わりそうな昼休み、ジョーが少しだけ私達の教室に来た。

ジョーはなにも言わず私の前の席に座り、私を見た。

終わりのチャイムが鳴った。ジョーはなにも言わなかった。

ジョーは一瞬だけ私の手を握り、何も言わず教室に戻っていった。

放課後もジョーとミカは文化祭の準備で忙しいみたいだったので、タロウと2人で帰った。

タロウといると、自然に笑えた。今日はジョーがいないからと、家まで送ってくれた。

「ルイ、また家まで送るよ、いつでも」

「ありがとう。でもいいよ、遠くなっちゃう」

「いいじゃん」

「気を付けて帰ってね」

「おう、また明日な」

「また明日」

タロウが何度も振り返るから「もーう、早く帰って~」と言ってしまった。

本当は、嬉しかったけど。

夜、ジョーから電話がかかってきた。ちゃんと帰ったかとか、ご飯は食ったかとか、俺に会いたくないかとか、そんなことばかりだった。

運よく母親は昨日から出張でいないことを話すと、ジョーはすぐに家にきた。

いつものように靴下を脱ぎ、足を伸ばす。仰向けになって寝ころんだ。

隣に座っていた私の手引っ張り、手の上に自分の顔を上に置いた。

「ルイ、大丈夫だよ、俺はなにも変わんないから」と。

ジョーは私の手のひらが好きだった。私の手のひらが大きくて冷たいのを気に入っていて、いつからか急に私の手を引っ張り、手のひらを上に向けて顔をのせて寝るようになった。

私も隣に仰向けになる。

隣を見るとジョーの顔がいつもより近く感じた。煙草のにおいがした。

「ルイ、」

「ん?」

「気まずい?親と」

「ううん、気まずくない」

「ふつう?」

「ふつうじゃない。」

「こわい?」

「え?こわくはないよ」

「なんだよ、全然わかんねえや」

「なにが?」

「大丈夫かって聞きたかっただけなんだけどさ」

「大丈夫だよ」

「そうじゃなくて、いや、大丈夫じゃないだろう」

「大丈夫なの、案外、結構、、」

「ほんとに?」

「うん」

ジョーの顔は心配してる顔で、どこか寂しいようにも見えた。

ジョーは起き上がり、私の手を握った。優しく。

「俺の大事な親友が悲しいのも、辛いのもいやだ」

「うん」

「俺には気を遣うなよ」

「うん」

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