第10話 強さを求めて

 先頭を行くウルザさんの小さな背中を見失わないように、悪所の中を奥へ奥へとゆっくりと歩いていく。


「――テメーッ、ゴラァアアアッ、ぶち殺したろーかぁっ⁉」

「上等じゃ、ボケ、ゴラァアアアッ‼ オイ、俺の剣、持ってこぉおおおおおいっ‼」


 ――ビクッ⁉


 時折、遠くの方から響いてくる怒号、叫び声……。

 悪所の奥へ進むにつれ、ソレは益々色濃くなり不安や恐れが募っていく。

 本来であるなら、こんなところからは今すぐにでも立ち去りたかったわけなんだけど……。

 そんな僕にここまでの行動力を起こさせたのは他でもない……。先ほど彼女が言った一言だった。


『要は強くなりさえすればいいんだろ? なら方法は他にもいくらでもあるじゃないか……』


 力強くもそう言い切った彼女の背中を見つめてみる。



「――……い、今、つ、強くなる方法がいくらでもあるって……」

「ああ、確かにそう言ったさ」


 目を丸くする僕を置き去りに、ウルザさんはなおも言葉を続けていく。


「いいかい? そもそもよ~~~く考えてごらんよ? 世の中に冒険者は数いれど、その全ての者が才能もあればレア・スキル所持者ブレシドゥ・パーソンってわけでもないだろ?」

「――(ギクッ)⁉」

「ん? どうかしたのかい?」

「へ……? ――あ、い、いえ、何でもないです。は、話を続けてください」

「? そうかい、それじゃあ……」


 危ない危ない……。レア・スキル所持者ブレシドゥ・パーソンという言葉についつい顔が強張ってしまっていたみたいで……。


「あ、そういえば、アンタのスキルについてはまだ教えてもらっちゃいなかったっけねぇ……」

「うぇっ? あ、いや、そ、それは……」

「………………」

「………………」

「ま、いいさね、もっともアンタがレア・スキル所持者ブレシドゥ・パーソンだったとしたら態々わざわざこんなところでこんな風にイジイジ悩んだりなんかしちゃいないんだろうからね」


「そ、そうですね(ぐさっ、ぐさっ‼)、ア、アハハ……」


 ウルザさんの悪意のない一言一言が心に突き刺さってくる。


「ふぅ~~、それじゃあ話を戻そうかね。でだ、仮にレア・スキル所持者ブレシドゥ・パーソンでなかったにせよ、戦闘系に特化したスキルを発現した連中ならまだしも、アンタみたいに戦闘とは無縁の何の役にも立たないスキルを発現する者もかなりの数いることだろう……。一方で、中にはそんなスキルを発現したにもかかわらず、魔物モンスターたちと互角以上に渡り合っている冒険者たちも少なからず存在している……」


 ふむふむ、言われてみれば、確かに……。


「では、何故そんなことが可能なのか? その理由が分かるかい?」

「い、いえ、で、ですからソレを教えてもらいたくて……」

「簡単なことさね、その答えは……」


 ――ごくっ……。


「そ、その答えは……?」


 そこまで言ってニヤリとコチラに向けて微笑みかけてきたかと思えば、


「ま、その答えを知りたければ、ちょいとあたしに付き合ってもらえないかい?」



 ――……とまぁ、そうして今に至っているわけなのだが……。

 正直、いまだ半信半疑というか、にわかには信じられないというか……。

 才能にもスキルに頼らず強くなる方法なんて、本当にあるんだろうか?


 そんなことを考えてる間にも、かれこれ10分も歩いただろうか? 前を歩いていたウルザさんの足がぴたりと止まった。


「? あの、う、ウルザ、さん……?」

「着いたよ」

「へ?」


 そんな声に誘われるまま視線をそちらへと傾けてみれば、ソコにあったのは店構えといい、これまた如何にもといった感じの古ぼけうらびれた感漂う道具屋と思しき一軒の小さなあばら屋……。


「あ、あの、ココって……」

「何してんだい、とっとと店内へ入るよ」


 それだけ言うと、ウルザさんはお構いなしに店の中へと入っていってしまった。


「………………」


 ポツンと店の前に一人取り残される状況も、


「――死ね、ゴラァアアアアアアアアッ‼」

「何じゃワレェエエエッ‼ 返り討ちじゃあああああああっ、ボゲェエエエエエエエッ‼」

「――ヒィッ⁉ あ、あのぉ、う、ウルザさんっ、ちょっと待ってくださいよっ‼」


 再び聞こえてきた怒号に、慌ててウルザさんの後を追いかけるべく店内へと駆け込んでいく。

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