第6話 戦力外通知

「リック、お前、現時刻をもってクビ!」


 この余りに突然のチャモアの解雇宣告に、僕の頭の中は真っ白になった……。


 スッキリとした朝の目覚め、雲一つない澄みきった青空……。今日はきっと良いことがあるに違いない♪ そうさ、昨日のヘマを挽回する働きをみせて、チャモアたちを驚かせてやろう‼

 気持ちを新たに、勢い込んで待ち合わせ場所ギルドへとやってきた矢先、よもやの解雇通告。

 まさか、僕の方が驚かされることになろうとは……。


「――ち、ちょっと待ってよっ‼ い、一体、どういうことか説明してよっ‼」


 僕にしては珍しく、いつになく食い下がっていく。

 当然だ。納得できないのは勿論だけど、何よりも僕は、このチームのことが大好きだったし……。


「み、みんなはどうなの? く、クローゼたちもチャモアと同じく僕をクビにしたい辞めさせたいと思ってるのっ⁉」


 それこそすがるような目でクローゼたちへと訴えかけてはみたものの、返ってきた答えは余りに無慈悲なものであった。


「ハァッ? そんなのあったり前でしょ? そもそも私はアンタの加入なんて最初から反対だったんだから! あ、それと、私の名前呼ぶのやめてくれない? 正直、アンタなんかに呼び捨てにされてるって思うと、虫唾が走るんだよね……」

「右に同じぃ。今後は街中で擦れ違ったとしてもぉ、話し掛けないでもらいたい……」

「――っ⁉」


 正直、コレはかなりのショックだった。流石に好かれているとまでは思っていなかったけど、ココまで拒絶に近い感情を露わにされるとは思ってもみなかった。

 仲間だと、そう思っていたのは僕の独りよがりにしか過ぎなかったという事実に打ちのめされた。


「ホラな、訊いての通りだよ。ま、それでもまだ納得いかねーってんなら教えてやんよ。そもそも俺がどうしてお前みたいな役立たずな上、根暗なヤツをチームに誘ったのかをな……」

「え? そ、それは、ぼ、僕とチャモアが幼馴染で、同じ村の出身だったからで……」

「ケッ、ばぁあああかっ‼ お前、本気でそんな風に思ってたのかよ? この俺様がそんな理由程度でテメーみてーな糞の役にも立たない足手まといな雑魚野郎を入れるわけねーだろーが‼」

「く、糞って……。そ、それじゃあ、どうして僕をチームに誘ったりなんかしたのさっ⁉」


 チャモアの余りの言い草に、流石の僕もほんのちょっとムッとした感じに、少しばかり強めの態度に出てしまうも……。そんな僕に対し、特に悪びれた様子もみせなければチャモアは平然と言い放った。


「そんなもん決まってんだろ? テメーがレア・スキル所持者ブレシドゥ・パーソンだったからだよっ‼ それ以外に理由なんかある訳ねーだろーがっ‼」

「――⁉ そ、そんな……」


 チャモアの口から知らされた衝撃の事実を前に、凍りついたかのように僕の体は動かなくなってしまう。


「えっ? ……い、今、何ていった?」

「た、たしか、レア・スキル所持者ブレシドゥ・パーソンが、どうとかって……」

「「「「「……………………」」」」」

「「「「「――レア・スキル所持者ブレシドゥ・パーソン⁉」」」」」


 冒険者組合ギルドの建物全体を揺らさんばかりのどよめきが起こったかと思えば、その事実を前以て知っていた数名の冒険者組合ギルド職員を除いたその場にいた冒険者野次馬たち全ての視線が僕へと集まってくる。


「……う、嘘だろ? こ、このボーヤがレア・スキル所持者ブレシドゥ・パーソンだっていうのかよ……?」

「ま、マジか? お、俺、レア・スキル所持者ブレシドゥ・パーソンなんて、は、初めて見た……」


 あれよあれよと瞬く間に噂は広まっていき、冒険者組合ギルド内はそれこそ蜂の巣をつついたような騒ぎへと発展していく。


 羨望、畏怖、好奇といったありとあらゆる感情が僕へと向けられる中、冒険者野次馬の一人が口を開く。


「……ん? で、でも、おかしくねーか? そんなヤツが何だって重剣の一撃ヘヴィ・ブロウなんてマイナーなチームにいるんだよ?」

「へ? そ、そりゃあ、お前……。何でだろ?」

「てか、そもそも、あのボーヤ……。ホントにレア・スキル所持者ブレシドゥ・パーソンなのか? 昨日にしてもそうだが、アイツ、ゴブリン一匹に苦戦しまくってたっていうぜ?」


 そんな野次馬たちの発言を受け、更なる混乱を招く冒険者組合ギルド内。

 と、そこへチャモアが再び口を開いた。


「ま、野次馬たちこいつらの反応も至極当然だわなぁ? そりゃあそうだ。なんせレア・スキル所持者ブレシドゥ・パーソンといやぁ、俺たちなんかじゃあ逆立ちしたって到底、足元にも及ばないエリート中のエリート様だ……。そんな中でもテメーのスキルは今までに発現例さえなかった未知のレア・スキルときたもんだ……」


 ――ズキッ‼


「ッ⁉」


 不意に頭痛のような不快感に襲われたかと思えば、瞬間、僕の脳裏に10年前のあの出来事が甦ってきて……。


 僕は堪らず叫んだ‼


「くっ、ち、チャモア、もう、や、止め――‼」


「イイかっ、テメーら、耳の穴かっぽじってよぉ~~~く訊きやがれっ‼ コイツのレア・スキルの名は『素直オビディエント』‼」


 そんな僕の悲痛な声も届かず、無情にもこの場にいる全員に聞こえるような大声で言い放った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る