第5話 仲間への気遣い

「――……ハァ、ハァ……ゼェ、ハァッ」


 酒場へと続く冒険者組合ギルドの階段を一気に駆け上がり、酒場へと躍り出るなり、キョロキョロと、すぐさま周囲に目を配っていく。


 と、三十畳はあろう薄暗い店内の角っこ。四人掛けのテーブルに踏ん反り返って座るチャモアら三人の仲間の姿を発見。


 あっ、よかったぁ、やっぱりみんな、ココにいたんだ……。


 みんなに置いてけぼりを喰らってからかれこれ一時間、正直かなりダメージも負ったけど、どうにこうにかゴブリンを倒すことに成功。

 更には、その後処理に手間取っちゃって、結局こんな時間になっちゃったわけだけど……。

 ともあれ、みんな無事でいてくれて本当によかった……。ホッとしたよ……。


 仲間の無事な姿に安堵感を覚えつつ、足早にも仲間の下へと向かって歩き出していく。


「み、みんな、ひ、酷いよ、僕一人置いて帰っちゃうなんてぇ~……‼」

「あ~ん? チッ、何だリック、テメーまだ生きてたのかよ? 今頃とっくにゴブリンの腹の中に収まってるとばかり思ってたのによぉ~。ケッ、もうお前の顔を見ないで済むと清々してたのに……。いやぁ~残念、残念……」

「ホントにね~、でも、ま、お香典とかで無駄なお金を使わなくて済んだだけよかったかもね……」

「うんうん、もっともお葬式自体挙げるつもりなんかないけどねぇ~」

「うぅ、ひ、酷いよ、チャモア、それに皆も……。ほんとにそうなるかも知れなかったんだから……。少しは心配してよ」


 みんな口々にそんな憎まれ口を叩いてはいるものの……。

 でも、僕はちゃんと分かってるから。きっとコレはチャモアたちなりの照れ隠しの一環なんだろう……ってね。


 そんなことを考えつつも、戦闘で疲れ果てた体を休めるべく、空いている席に腰を下ろそうとした時である。


「おおっとぉ~、ちょっと待った! その前に、やるべきことがあんだろ? ソレをとっとと済ませちまってくんねーかな?」

「あ、う、うん、ゴメン……。え、え~~~っと……――」


 コトッ……。


 チャモアの指摘を受け、僕は慌てた様子でズボンのベルトに巻き付けておいた袋の中ををゴソゴソと漁ると、中から赤黒い石ころのようなモノを取り出し、ソレをそっとテーブルの上へと置いた。


 ソレは『魔石』と呼ばれるモノで、ゴブリンの核、言うなればモンスターの心臓とも呼ばれているものである。

 魔物によって大きさ、形状、輝き……。実に様々で、冒険者たちはコレらをモンスターから得ることでその主な収入を得ているという訳である。


「オ~シ、ご苦労さん。ホラよ、コイツがお前の今日の取り分だ……」


 そう言ってピーーンと指先で何かを弾いたかと思えば、ソレは僕のいる方向へ向かってクルクルと、大きな放物線を描きながら僕の前へと落ちてきて……。


「おっとっと……」


 慌てて手を差し出し、一瞬だけつかみ損ねるも、何とかキャッチすることに成功。

 開かれた僕の手の中には1アルジュが収められていて。


 と、僕達のそんな一連のやりとりを覗き見していたのか、後ろの野次馬連中からこんな声が漏れ聞こえてきた。


「オイ、見ろよ、アレ? 相変わらずえげつねー真似してやがるよなぁ?」

「ん? ああ、チャモアのヤローの事か……」

「いくらゴブリンが弱いモンスターだってよぉ~、一体で5~6アルジュにはなんだろ? それをたったの1アルジュって……」

「違いない……。それに仕留めてるのだって毎回あのボーヤなんだろ? 挙句の果てには、その後の魔石を取り出す作業だって全部あのボーヤ任せときたもんだ。その間、テメーらは戦闘をほっぽらかして酒場で管巻いてるだけだってのに……。本来なら、3、否、4アルジュは貰っても文句は言われない働きだぜ?」

「だな。でもよ、肝心のボーヤがあの調子じゃな……?」

「あん?」



 手の中の1アルジュお金を目の当たりにするや、僕はパッと顔を綻ばせた。


「あ、ありがとう、チャモア。正直、今日はみんなに迷惑をかけちゃったから、お金をもらうのも気が引けてたんだけど……」

「へ、そう思うなら、これからはちったぁマシな働きをして貰いたいもんだな」

「ホント、これ以上迷惑かけないでほしいものね」

「異議なしぃ」

「う、うん、き、気を付けるよ」


「……全く、イイ鴨だな……」

「ああ、ホントにな……」


 そんな心無い言葉が僕の耳にも届いてはいたものの……。

 でも、本当はそんなに野次馬たちみんなが言うほど理不尽だとも思っていないんだ。

 実際、僕がチームの役に立てていないというのは事実なんだし……。何より、こんな役立たずの僕をチームに迎え入れてくれたチャモアの気持ちが嬉しくって……。僕は僕なりに少しでもチームの役に立てるならと喜んで今の待遇を受け入れていこうと思っている。


「うっし、これで話は終わりだな? じゃあ、そろそろ消えてくんねーかな? お前がいるとタダでさえ不味い酒が、余計に不味くなっちまうんでな」

「同感」

「異議なしぃ」

「あ、う、うん、ご、ゴメン……。そ、それじゃあ、また、明日……ね?」


 ソレだけ言うと、僕はもう一度だけチャモアたちに頭を下げて足早にもそのまま酒場を後にしていく。

 ほんというとみんなとお酒とか飲んでみたかったけど……。多分、みんなも疲れてるんだろうし、気を使ってあげるのも仲間として大切なことだよね?


 ――よ、よぉ~~~し、明日からはもっと頑張って、少しでもみんなの役に立つってところをアピールしていくぞぉっ‼


 そんなことを考えていた僕の思いは、翌日、木っ端みじんに粉砕されることとなる。

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