第4話 不満爆発

「くっそがぁあああああああっ‼ ふざけんじゃねーってのっ‼」


 酒場中にチャモアの怒声が響き渡る。

 リックを囮にそうそうと街へと引き返したチャモアようする冒険者チーム・重剣の一撃ヘヴィ・ブロウのメンバーは、戦いが終わるとこうして冒険者組合ギルドの二階に与する酒場へと繰り出し、管を巻くというのが毎度お馴染みのルーティンとなっていた。


 が、今日は普段いつもとは少しだけ様相が違っていて……。今までならものの一時間も飲めば酔いつぶれるか、どちらにせよ大人しくなっていたものの、チャモアの怒りは一向に収まる気配をみせず、それどころか時間が経つにつれ益々ヒートアップしていき……。


「くそくそくそっ‼ な、何で天才のこの俺様が、ゴブリン一匹におめおめ逃げ出さなきゃならないんだよっ⁉ ――オイッ、クローゼ! テメーの魔法、何なんだよありゃあ⁉ 無駄に詠唱ばっかする割には威力はねーし、それ以前に全くもって掠りもしねーじゃねーか⁉」


 チャモアとテーブルを向かい合う形で正面に座し、チビチビと安酒を煽っていたクローゼと呼ばれた小豆色あずきいろのローブを羽織った赤髪の少女に対して、文句、というよりも最早八つ当たりに近い感情をこれでもかとぶつけ始めていく。


「ハァッ⁉ それはコッチのセリフよ。そもそも、当たりもしない大振りを馬鹿みたいに繰り返すしか能のないアンタのスキルにこそ問題があるんじゃないの? ブンブン振り回すだけなら風車ふうしゃでもできるってのよっ……」

「なっ⁉ て、テメー言うに事欠いて、お、俺様の最強スキルにケチつけようっていうのかよっ⁉ テメーのへっぽこ魔法を棚に上げてよくそんなことが言えたもんだなっ⁉」

「へ…………へっぽこ……? っ‼ い、言ってはならない言葉を口にしたわね……。いいわ、どちらの言い分が正しいか、この機会に白黒つけようじゃないのよっ⁉」


 そういうと二人は自らが座っていた椅子が倒れるのもお構いなしに、勢いよく立ち上がるやその場で臨戦態勢へと入っていった。


 ――と、


「お? 何だなんだ? 喧嘩か?」

「おっほ~、おっもしれぇ~。どうせなら、どっちかが死ぬまでやりあえよ~♪」

「おい、お前、どっちに賭ける?」

「俺は断然、魔法使いだね。女の方に20アルジュ賭けるぜ♪」

「あ、俺も俺も♪ 魔法使いの方に30アルジュ♪」

「何だよ? 誰もチャモアに賭けるヤツはいねーのか? これじゃあ賭けにならねーぞ?」


 騒ぎを傍観していた野次馬たちが集まり、これ見よがしに酒の肴にと観戦を決め込む中、今にも一触即発といった構図も、


「……もぉ~、二人とも飲みすぎぃ~。せっかく怪我もしないで帰ってこれたのにぃ、これじゃあ無駄になっちゃうよォ~?」


 それまであえて口を出さず、沈黙を守っていた重剣の一撃ヘヴィ・ブロウメンバーにして、弓使いアーチャー兼こういった時の仲裁役でもある茶髪に丸眼鏡の少女がこの場を丸く治めるべく声を挟んだ。


「チッ、ま、マルカに免じて、今回だきゃあこの辺で勘弁してやらぁ。精々マルカに感謝するこったな」

「フン、その言葉、そっくりそのままお返しするわ……」


 互いにそんな憎まれ口を叩きあいながらも、再び席に着く二人……。

 そんな二人の様子に、野次馬たちも……。


「チッ、何でぇ~、結局、今日もフリだけかよっ?」

「あ~あ、ホント毎度のことだがご苦労なこって……」


 口々にそんなことを零しながらも、彼らも各々の席へと戻るや再び酒場中に先ほどまでの賑わいが戻っていく。

 が、野次馬たちの言い分ももっともな話で、チャモアにとってはこうした揉め事すらも最早一種のパフォーマンスの意味を兼ねていて。少しでもチームの名を知らしめようとするチャモアなりの考えではあったのだが……。

 所詮それが傍からしたら子供の粋がり程度でしかないという事に当のチャモア自身が気が付いていないことが何とも皮肉なことではあるのだが……。


 

「――……あ、そうだ! へっぽこで思い出したんだけどさ、ねぇチャモア。そもそも何だってあんな役立たずな子をチームに誘ったりなんかしたのよ? いくら同郷どうきょうよしみだからって、人が良すぎってもんでしょ⁉」

「あ、それは私も思ってたぁ~。チャモアって、そんなに情に厚いタイプでもないしぃ、どっちかというとぉ………………くずぅ?」

「うっせーな! 喧嘩売ってんのか、テメーは! ……ケッ、俺だって何も好き好んであんな役立たず入れた訳じゃねーよ‼ あいつを入れりゃあちったぁ俺たちのチームにもはくがつくかと思ったんだよ……。クソ、完全に読み違えたぜ……‼」


 憎々し気にも吐き捨てるかのようにそういうと、再び安酒をかっ喰らっていく。


はくぅ? あの子を入れることで?」

「それは一体どういうことぉ~?」


 興味津々といった様子で顔を近づけてくる二人を余所に、テーブルの安酒をグイッと煽るや、面倒くさそうにしながらも改めて二人に説明をしていく。


「――……う、嘘ッ⁉ あ、あんなトロい子が、レア・スキル所持者ブレシドゥ・パーソンだっていうの⁉」

「ありえない……。そもそもレア・スキル所持者ブレシドゥ・パーソンがゴブリン一匹にああまで手こずる訳がない……」

「俺だって信じられねーよ。でもな、あいつがレア・スキル所持者ブレシドゥ・パーソンだってのは紛う事無き事実なんだよ……。もっとも、そのレア・スキルっていってもピンからキリまであるってことなんだろーけどな……」


「どゆこと?」

「フン、つまりはよぉ~、あいつに発現したレア・スキルってのは……――」


 チャモアがそう言いかけた時である。


「――み、みんな、ひ、酷いよぉ~、ぼ、僕一人置いて帰っちゃうなんてぇ~‼」


 このタイミングで話題に上がっていたリックが酒場へとやってきた。

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