第23話 冒険者のお仕事
「い、いやぁあああああああああっ‼ だ、誰か、た、助けてぇえええええええっ‼」
グランベリーから東へ数
ダダダダダダッ――。
ダッダッダッダッダッ――。
と、それに
「ハァ、ハァッ、ハァ……。くっ、ハァ……」
「ハァ、ハァ、お、お姉ちゃん、こ、怖い、怖いよぉ……」
「ハァ、だ、大丈夫よ、エリサ……。ハァ、ハァッ、も、もう少し頑張れば、ハァッ、ぐ、グランベリーの街だからね……‼ そ、そこまでいけば、ぼ、冒険者の人たちが、き、きっと助けてくれるから……‼」
「う、うん、ハァッ、ハァ、わ、わかったよ、お姉ちゃんっ、ハァっ……」
「ハァッ、ハァッ、ッ……」
無理やりに笑顔を作り、怯える妹を励ます傍らでそっと後ろを振り返ってみた途端、姉の顔がみるみるうちに強張っていった。
「――っ‼」
ダダダダダダッ――。
ダッダッダッダッダッ――。
焦りの表情とともに更に走る速度を上げていく。
と、そんな二人を嘲笑うかのように、
ドスンドスンドスンドスンッ――。
そんな地響きを鳴らしながら巨大な物体が姉妹のすぐそこまで迫っていた。
「ブホッホッホホホッ♪」
その巨体に似合わぬ身のこなしといい、肉付きの良い分厚い唇を歪ませ、咽返るような臭い息とともに大量の涎を撒き散らし、肥満気味などという言葉では足りないくらいに走るたびにブルンブルンと零れ落ちてしまいそうな、身体にこびりついた脂肪を揺らしながら姉妹を執拗に追いかけていく。
その姿はまるで神の悪戯か、人と豚とを掛け合わせたような
が、いくら人種に近い見た目をしているとはいえ、その心は人とはかけ離れていて……。
その性質は極めて残忍で、万が一にもオークに捕まろうものなら、男子の場合、子供ならば非常食――。大人であるなら遊び半分で拷問にかけられた挙句、結局は食料として扱われることに……。
一方で女性の運命はさらに苛烈で、オークはその残虐性とともに性欲が異常なまでに強いことでも知られており、女性の場合、それがたとえ年端のいかない幼女であったとしても情け容赦なく徹底的に凌辱された結果、オークたちの性奴隷として死ぬまで飼われ続けていくしかない。
「ハァ、ハァッ、ハァ、ハァ……」
「ハァッ、ハァッ、ハァ……」
そんな絶望的な未来を知ってか知らずか、姉妹は生き延びるため必死に走り続けていく。
と、
そんな姉妹が目指す方向、緑に覆われた大草原に目にも鮮やかな赤い髪の、少年と思しき後姿が飛び込んできた。
「――――‼」
その姿を目の当たりにするや、
「お――お願いっ、た、助けてくださいぃいいいっ‼」
少年に向かってあらん限りの声でもって助けを求めていく。
「え? ――ッ⁉」
そんな必死の訴えが届いたのか、少年が振り返るや否や姉妹の一刻も許さぬ事態を即座に理解したのか、
ダッ――。
一遍の迷いもなければ風を切るような勢いでもって姉妹へと向かって駆け出していく。
ダダダダダダダダッ‼
みるみる大きくなっていく少年の姿に一縷の望みのようなものを抱いたのか、姉妹の瞳からはとめどなく涙が溢れ出してくる。
グングン近づいてくる少年――。そんな中、少年が姉妹に向けて大声で叫んだ。
「――伏せてっ‼」
「――⁉ は、ハイッ、エリサッ‼」
「え? お、お姉ちゃん!?」
妹をガバッと抱き寄せるようにその場に蹲った。
と、まるでそのタイミングを計っていたかのように、
ダダダダッ、ガッ、ダダァーーーーーンッ‼
少年の声に姉が妹を抱きかかえるかのように地面へと伏せるのと同時に、
大きく跳躍していく。
ブォンッ――。
「「――⁉」」
姉妹の頭上を影のようなものが通過していったかと思えば、
ズザザッ‼
「ブヒィッ!?」
そしてオークの前に着地するのとほぼ同じタイミングで、
――スチャッ、
居合のような格好のもと、剣へと手をかけた直後、
「ハァアアアアアアアアアッ‼」
気合とともに振り抜くや、赤い閃光のようなものが瞬いた。
ズバァアアアアアッ‼
閃光は逆袈裟斬りのような格好で、オークの右脇腹から左肩口にかけて走っていき――。
「……ブヒィッ!?」
一瞬、何が起こったのか理解できずにその場で固まっていたオークであったが、とくにこれといって痛みを感じるでもなければどうといったことはなく……。
「ブヒィブヒィ♪」
再びその鼻につく下卑た薄笑いを浮かべるとともに、その手に持っていた棍棒のようなものを振り上げ、少年の頭目掛けて殴りつけようと一歩前へ踏み出し掛けた時だった。
ズルッ……。
「ブヒィッ!?」
ズルルルルルルッ――。
「ブ――ブヒィイイイイイイイイイッ!?」
ドスーーーーーンッ……‼
そんな断末魔とともに少年の剣によって断ち斬られた身体が斜め下に滑り落ちるようにオークは絶命した。
「……――フゥ~~~、ギリギリセーフかなぁ……。間に合ってよかったぁ……」
ビュンッ、ビュンッ――。
少年は二度三度と手慣れた手つきで剣についたオークの返り血を振り払うなり、剣を鞘へと納め、相変わらず震えて蹲っている姉妹の前までやってくるなり、姉妹に向けてそっと手を伸ばしていく。
サッ……。
「ひぃっ!?」
と、目を伏せ可哀そうなくらい怯えを見せる妹にあくまでも優しく声をかけていく。
「驚かせちゃってゴメンね。もう大丈夫だから。どこか怪我とかしてたりはしないかい?」
「………………」
先ほどまでとは打って変わって、少年のその屈託のない笑顔に安心したのかようやく本来の表情を取り戻していく。
と、そんな中、今度は姉の方が少年にお礼を言ってくる
「あ、危ないところを、ありがとうございました……。本当に助かりました……」
「ましたぁ……」
「あ、いえいえ、お気になさらないでください。これも僕の仕事みたいなものですから……」
「え? ということは、アナタはもしかして……?」
「あ、ハイ……。申し遅れましたけど、僕は
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