第28話 騙す者、騙される者
バタンッ――。
と、真っ暗な室内に灯も灯さず隣の部屋のドアが閉まる音を壁に耳を当てジッと聞き耳を立てている人物がいた。
「………………」
物音ひとつ立てず、注意深く僅かな反応をも聞き逃すまいと神経を集中していたところ、
「――ぅ、っ、っ‼」
「――‼」
と、ついに待ち望んでいた展開が――。隣の部屋がにわかに騒がしくなってきたかと思えば、
ガチャッ、バタンッ‼
部屋のドアが閉じられてから五分とかからぬ間に再び扉は開き、そして瞬く間に閉じられていった。
ダダダダダダダダ……――。
そして廊下を一気に駆けていくような足音が徐々に遠ざかっていくのを部屋の中から確認し、しばらく様子を窺ったその後――。
ギィィィッ……。
ゆっくりとなるたけ音を立てないようにドアを開くなり、ほんの少しだけ顔を覗かせ周囲に人がいないのを慎重に確認していくかつてのリック・リパートンのチームメイト、クローゼ・イーグナッツの姿がそこにあった。
と、
カチャッ――。
「♪」
コチラも予想通りというか、案の定鍵もかけられずにおかれたその部屋の中へと入っていくなり、
「…………あった‼ アレが例の……」
部屋へと入って真っ先に目に入った、ベッドの脇へと立て掛けられていた剣――。
嬉々とした様子で剣に歩み寄ろうとした時だった。
グシャ……。
そんな乾いた音にふと視線を下げた先には、踏み潰され少しくしゃげた紙切れらしきものが……。
「……………」
それとはなしにソレを拾い上げるなり誰に言うでもなく呟いた。
「まさか、ホントにこんな手に引っかかるとはねぇ~」
手紙にはこう記されていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
バカリックへ
テメー、最近調子こいてるみてーじゃねーか?
勘違いもそこまで行くとムカつくぜ。
ともあれ、そんなテメーに朗報だ。
本当ならこんなことを口にするのも虫唾が走るほど嫌で嫌で堪らねーんだが……。
テメーがどうしてもって頭を下げて頼んでくるってんなら、また荷物持ちとして俺のチームで使ってやってもいいぜ‼
せっかくの俺からの心遣いだ。断るなんて選択肢はテメーにねーからな‼
そんな訳だから今から伝える場所に秒で来い‼ ついでにあのときテメーから貰ったボロ剣もくれてやっから、今使ってる剣はとりあえず部屋にでも置いた状態で悪所の入り口近くまで一人で来い。
もし剣を置いてこなかったり、他の奴を連れてきたりしやがったら二度とテメーなんかチームに入れてやらねーからな‼ そこんとこ、
じゃあ、この手紙を読んだら三秒以内に部屋を出ろ、遅れんじゃねーぞ、ボケッ‼
偉大なるチャモア様より
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ま、恨むなら
かつての仲間に対する哀れみとも嘲りともとれる言葉だけを残し、クローゼは立て掛けられていた剣をその手に取りなり、
ファサッ……。
纏っていたローブの内側に隠すようにしまい込み、再びドアの外に誰もいないのを確認しつつ静かに部屋を、そして宿屋を後にしていった――。
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