第16話 腕試し

「え~~~っと、確か、このあたりだったと思ったんだけどな……」


 ウルザさんと別れた後、僕は矢も楯もたまらずダンジョンへ飛び込むなり、教えてもらったエリア内を闇雲に捜索していた。


 チャモアたちとのやり取りもあって、このまま冒険者を諦めなくてはならないかと、そんなことを考えていた矢先、それこそ降って湧いたような奇跡にどれほど勇気づけられたことか……。


 何よりこの伝説級の武具を得たことで今の自分がどれだけ強くなったのか、

ソレを確かめてみたくて……。一秒でも早く体感したくてココまでやってはきてはみたものの……。


「……おかしいな、ゴブリンなんてどこにもいないじゃないか?」


 その言葉通り、ダンジョン内やってきた先には、お目当てのゴブリンはおろか、人っ子一人いやしない……。


「……………………」


 コレって、もしかしてもう他の冒険者たちに退治されちゃったとか?


 何しろ敵はゴブリン一匹である。その可能性は十分にあり得る。


 その可能性を全く考慮していなかったこともあって、一瞬気持ちが萎えかけるも、


「えぇ~~~い、まだ諦めたりするもんかぁあああああああっ‼」


 とはいえ僕もそう簡単に諦めはしない。勢い込んでここまでやってきたのだ。それに、ウルザさんもこの周辺といっていただけで詳しい場所まではハッキリ言ってなかった。

 ならもう少し奥の方にいるのかもしれないじゃないか。


「うん、そうだ、きっとそうに違いないっ‼ よぉ~~~し、そうと決まれば‼」


 そう自らを鼓舞し、僕はさらにダンジョンの奥深くへと入っていった。


 はやる気持ちを抑え、注意深く周囲に目を配りつつもダンジョンを奥へ奥へと進んでいく……。ダンジョン内部は一般の人が考えている以上に明るく……。僕も冒険者になるまでは知らなかったんだけど、詳しい理由は解らない割愛するけど何でも自然発生している発光型の苔などの影響で地上ほどではないものの常にそれなりの明るさは保たれているとのこと。



「――……ッ、ガッ、ギッ……」

「?」


 さっきまでいた場所から歩き続けること10分少々……。目指す先、薄暗いダンジョンの闇の中から微かに物音が聞こえてきたような……。


「――! こ、これって、もしかしてっ⁉」


 俄然がぜん高まってゆく期待感。自然、小走りになっていく僕の足……――。



「グギャル」

「――‼」


 今僕のいる場所から距離にして20メートルリールといったところか……。洞穴のような半球状の窪みの中から明らかに人間のソレとは違う呻き声のようなモノが響いてくる。


「………………」 


 で、肝心の僕はというと、おあつらえ向きというかなんというか、これまた体を隠すのに都合よくあった岩陰に身を潜ませるなり、あくまでもそぉ~っとそぉ~っと……。

 気付かれないようにと細心の注意を払いつつも岩陰からそっと顔をのぞかせていく。


「………………(ジィ~~~~ッ)」


 と、視線の先で何かが蠢いているのがわかった。

 一旦その場にて腰を据え、食い入るように中の様子をうかがうと、ソコにはこれまでにも何度となく見てきたドス黒い緑色が浮かび上がっていて。


 ま――間違いない、アレがウルザさんの言っていたゴブリンだっ‼


 その姿を目の当たりにした瞬間、パッと破顔する僕。くぅ~~~、魔物モンスターと遭遇してこんなに気分が高揚したのは生まれて初めてのことかもしれない。


 なるべく音をたてないようにしながらも聖剣ロストハイムへと手を伸ばしていく。


  ――スチャッ……。 ――ギュッ‼


 右手にしっかりと聖剣ロストハイムを握りしめ、そして残った左手を聖鎧ラグナヴェルグの丁度心臓のあたりに添えて、ゆっくりと目を閉じていく。


『……――よく聞けリック・リパートンッ‼ ここからだ、ここからが僕の本当の冒険の始まりなんだっ! 弱くてダメダメな僕だけど……。聖剣ロストハイム聖鎧ラグナヴェルグ……‼ そして英雄スルトよ、どうか、どうか僕に力を貸してくれっ‼』


 パァアアアアアッ……――。


 そんな魂からの呼びかけに呼応してくれたかのように一瞬、聖剣ロストハイム聖鎧ラグナヴェルグから熱い何かが発せられたような気がした。ソレは目を閉じている状態でなお感じとることができた。


 スゥー……。


 再び目を開けたとき、僕の覚悟はすでに決まっていて。おもむろにすっくと立ちあがるなり、


「――うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ‼」


 自らの勇気を奮い起こすかのような雄叫びとともに敵目掛けて一気に駆け出していった。



「――グガッ⁉」


 僕の雄叫びにゴブリンヤツの体が大きく反応したのがわかった。


 が、それでも僕は足を止めることはなかった。


 そうだ、構うもんかっ‼ あくまでも正々堂々と、真正面から打ち取ってみせるっ‼


 そういった意気込みでもってまっしぐらに突き進んでいく。


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ‼」


 と、


 ――ガッ‼


「――うぇっ⁉」


 ――ズルッ‼


「――ハッ、ぐっ、ぬぬぬぬっ、~~~~~~だ、ダメだぁっ……――」


 ズッテ~~~~~ンッ‼


「ぶべっ⁉」


 10メートルリールも進んだだろうか? 勢いよくも走りだした先で何かに足を取られバランスを崩してしまう。何とか倒れまいと必死に堪える姿勢をみせるも力及ばず、盛大にスっ転んでしまった。


 結果、まるで踏み潰された蛙のような無様な姿を晒していく。

 

 うぅっ、な、なにもこんなタイミングで……。


 ソレはまるで僕の行く末に不吉な兆しが見え隠れしているかのようで……。そんなモノを打ち消すかの如く、すぐさま体を起こし、僕の行く手を妨げた物体を左手で掴み取るなりまるで親の仇とばかりに地面に叩きつけようとするも、


「……え?」


 そのものを僕の目がとらえた瞬間、今しがた感じていた怒りとともに僕は言葉を失った。

 そう、僕の左手に握られていたのは真っ白な枯れ木のような物体で。


「え? これって、もしかして骨、なんじゃ……?」


 ハッとして周囲に目を向ければ、見渡す限りそこかしこに骨と思しき欠片かけらが散らばっていて……。


「………………」


 当然その惨状にも驚かされたが、ソレ以上に僕を驚かせたのが……。


 あ、あの……。こ、これって、ひょっとして……。ひ、人の骨、なのでは……?


 そんなことを考えていた矢先、ついに闇の中からヌッと異形の者が姿をあらわにした。


「――⁉」


 ドスンドスン、グシャッ、ドスンドスン、グシャッ……。


 まるでわざとそうしているかのに不快な音を響かせ、落ちている骨を踏み潰しながら魔物が僕に向かってゆっくりと近づいてくる。


 ドスンドスン、グシャッ、ドスンドスンッ、グシャッ……。


 暗闇から現れたのは間違いなく僕がこれまでに何度と見てきたドス黒い緑色の体躯……。


 ドスンドスンッ、ピタッ……。


 違っていたのはその風貌、そしてその大きさサイズ……。今までに幾度となく死闘を繰り広げていたソレは常に僕の方が見下ろしていたにもかかわらず、今目の前までやってきたソレは、初めて僕の方から見上げることとなった。


「…………へ?」

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