第2話 誕生!ダンジョン人間。
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俺は今…漂っている。
虹色に滲む透明な空間の中を。
──身体が重い──
ピクリとも動かせない。
指の先まで。これは…
──俺は死んだのか?ここはあの世なのか──いや、俺は殺されて──そしてダンジョンに吸収されて──ああ…もしかしたらここは──
ダンジョンの『胎内』…のような場所なのかもしれない。
その証拠に俺の他にも漂っている。ザッパー達が回収しきれなかったのであろう…戦利品の数々が。それを見て想った。
──なんか、死出の駄賃…みたいだな──
俺の周りで漂うそれらは、奴らから俺への手切れ金であるように見えた。そう見えてしまえばただ忌まわしい。恨めしい。あれらと一緒に俺も…
──ダンジョンの糧とされるのか──
たまらなかった。
──こんな酷い事あっていいのか──
思わずにはいられなかった。
──いいはず、あるかよ──
ザッパー。モグサ。そして、レッコ。
許せない。ヤツらが。
──いや、それよりも自分だ──
無力な自分が許せなかった。
──そして──
世界が。俺にこんな無力を、理不尽を強いてきたこの…クソッタレな世界…。
そんな憎しみに灼かれて、
そんな悔いにまみれて、
──このまま──
痛みばかりを心に感じながら。
感じるだけで何も変えられずに。
最後まで何も得られず。
──死ぬのか…俺は──
【──けた】
──……?──
【──っと】
──誰だ?──
【──けた】
──確かに聞こえる。──この声は一体…誰の──
【──見つけた。】
──なんだか、正体不明な声…こんな場所で…──
【──見つけた。やっと。私の、空間】
──ほら、まただ───男だか女だかわからないこの声は一体どこから……って、…これは──
【受け入れなさい。】
──……なんだ…この…『玉』は…──
その声は、どうやら俺の周囲を漂う光る球体から発せられたものであるようだった。
それに、殺される前に感じたあの…恐怖の波動…
──あれはこの玉が発したものだったのか?──
なんだか名残りのようなものを感じる…。で、あるのに…今際の際であったからか…その正体不明な球体に対し俺は…
──受け入れたなら、どうなる───
臆する事なく、質問で返した。
【私は、『受肉』を。あなたは『生』を】
あんな恐ろしげな波動を発していたものだとは思えない。『球体』は律儀にも返事をくれた。その声には誠実さが溢れていたが…
───そうか…だけど残念だったな───
【……!?……】
───あんなに死ぬのが怖かったが───
【…な…】
───俺にはもう…今更過ぎる───
【…何故。あなたの魂は証明したがっていたはずだ。おのが命を。】
確かに。証明したかった。この世界に問い続けてきた。なんのために生まれてきたのか。何故、こんな弱者として生まれなければならなかったのか。だが…その全ては無駄に終わった。
───もう疲れたんだ…だから…このまま死なせてくれないか…───
俺みたいなとびっきりの弱者が生きるには、この世界は残酷すぎる。
【あれ程の仕打ちを受けたのです…復讐を考えないのですか?】
───いや、そもそも俺が殺されるハメになったのはお前が原因な気がするんだけど?───
【それは…ただ脅かして追い払おうとしただけで…。大恩あるこの『迷いの森』を助けたい…その一心で…まさかあのような事態になるとはあまりにも想定外のことで…】
──お前な…──
【………はい。】
──実際にそれが原因で俺は死ぬんだそ?そんな相手にそんな言い訳…──
【それは……確かに。申し訳なく思います。心からの謝罪を。…ですがそれなら尚更です。私を受け入れなさい。ソラ。そして、新たな生を。】
──まだ言うかよ…それに復讐って言ってもそんなもの…叶うはずもない。こんな無力な俺に…──
【だから。弱者の無念を訴えるのなら、尚更。私を受け入れなさい。ソラ。】
──というかさっきから俺の名前…まあいいや…そんな事より、そもそも死んだ人間を生き返らすなんて凄い力を持つなら何故だ?何故、俺なんかを必要とする?──
【いえ、蘇生などは不可能です。それにまだ気付いていないようですが。あなたはもう既に死んでいます。この対話は私があなたの魂に直接干渉し、実現したもの。】
──そう…なのか…俺ってもう死んでるのか…というか蘇生が無理ならどうするつもりで…──
【……っせぇな…】
───……え?…………今なんて…───
【………いえ。その問いには…『あなただから』…と答えます。『あなたしかいなかった』…ではありません。『あなただから、あなたこそが必要だったから』そう答えます。そしてこうも答えましょう。蘇生が不可能でも『生まれ変わる事なら出来るのだ』と。】
───生まれ…変わる?───
【そう、そして、生まれ変わったあなたは、『力』を得るでしょう。】
──力を?──この俺が?──でもそれはもはや俺じゃ…──
【それはやってみてから判断すればいい事。】
──そんな簡単に…──
【このままただ無念のみを抱いて消滅する…それよりよほど良いのでは?】
──いや…それは…そう…なのか?──でも…いや………───
『力』。その言葉を受けた時に改めて知った。自分がどれほど、力というものを欲していたのか。だから…
───いいだろう。……てやる───
迷いは少なかった。
───…くれてやるっ!
───『空間』でもなんでも…全部だっていい…、持っていけ───
──だから、力を──
───この世界に抗うための───
───俺に──力をっっ!!───
【 承 《歓喜っ》 知! 】
強過ぎる悦び。
もはや何を言っているのか分からない。
そんな念が伝わると同時、その光る球体は俺の胸へと吸い込まれ…
そし て
ビビキ…
───ぐ───
ビ ──かはっ── ビキ ──ぐっ!── ビキビキ ──ぐあ、ぅっ!─── ビキビ ──あ!── キビキビ──あ!── キ…ビキビキビ ──ああ!ぐ!ああああああああああああああああああああああああああああう!── キビキビキ!
【空間、受肉。同化、完了。…はあ…これでやっと…】
──ぐ。なんだったんだ今の──すげー痛かったぞ…つか、同化?俺は一体、何と…───
【〜〜〜ッッッハーーーーー!】
───え。
【クっっソがぁぁっっ!】
──ええ?
【クソがクソがクソがああ!やぁってやったハっハー!やってやったぞクソがぁっ!ぅオラぁッッッ!!!】
──ええええ…?…『クソ』とか『オラ』とかお前──
【…うるせぇ。】
──え。──
【うるせぇっつった。】
──ええっ?─いや、その口調──
【おい。時間はねぇ。さっさと【吸収】しろ。何でもいいからそこらヘンに漂ってるものを片っ端からっ】
──いや、急に…【吸収】って一体…──
【だぁから!うるせぇっつの!】
──えええっ──
【こっちぁ逃げた先で偶然ダンジョン発生に巻き込まれて…そんな不運しょってから隠れて逃げてを数百年繰り返してきたんだ!とっくの昔にヤサグレてんだよぉっ!】
──いや言われても…──
【さっきのも地だがな。もはやこっちも地だ。だから馴れとけ早めにな……つか、それよりソラぁ!なぁにを愚図ってんだオラ!早くしろぉっ!】
──いやいや、でも──
【いつもやってる収納の要領で思い切れホラ早く【吸収】しろってんだオラァ!このダンジョン…お前らが言うところの『迷いの森』が許してくれてんだぞ?だからほら!早くやれえっ!】
──あ、ああ分かった──
いや分からないが。
俺はとにかくやってみた。
透明な虹色空間の中、隻腕に不便を感じつつ藻掻くようにして掻き分ける。手足をバタつかせ、泳ぐようにして。そして近付いた先から触れ……て…
──えっと…どうやるんだっけ──
【だから収納の要領だっつって……くそ!早くやれやあぁぁっ!!】
──う…くそうっ、きゅ、【吸収】っ?──サァァァァ……
…………………
……………
今の…俺に吸収…されたのか?でも光の粒子に分解され…そして………消え……
──って、いやいやいや…なんかいつもの収納と違うぞ?これで良かったのか?オイお前っ!──
【なんだこら……って、おっとぉ…忘れた頃に…クソっ
《個体名『ソラ』はダンジョンコアと同化を果たしました。》
…なんとかなんねーかなこの名残り…】
──ううわ。な、なんだぁコイツ…急にまた口調が…つか──ダンジョンコア?──
【うるせぇ俺にもどうしようもねぇんだこれは仕様みたいなもんで───
《個体名ソラは『ダンジョン人間』へと種族進化を果たしました。》
──まあ、気にするな。】
──えええ。また口調が……こえーよコイツ。つか、気にするに決まってんだろ!──
ていうかダンジョン人間て。
──なんだそのネーミング。凄くダサいぞ…──
【だからうるせぇ!】
──その口の悪さも…──
【だあもう!次いくぞ次!】
ダンジョン人間が、征くっ!〜『な…ダンジョンと同化しただと?』『うん。それで復活した。』こうして不遇な上に仲間達に殺された俺は無双する事に〜 末廣刈富士一 @yatutaka
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