四章『チートクズ、はじめました』4‐6
そして、決闘当日。
目も当てられない状態のクボ教授を店に置いて、ジャージ姿で会場にやってきた辰己は、会場の周りと、内部の観戦席で小一時間ほどかけて『仕掛け』を施していた。
決闘の会場は、小さなコロッセオのような場所だった。フィールドを囲む様に円形に観客席が配置されており、土のフィールドの中央には一段高くなった、二・三十メートル四方くらいの『決闘場』がある。
打ち合わせの段階で、使われる席、使われない席などを辰己は正確に把握し、メモしておいていた。
その、客席の使われない場所に、辰己はとある魔道具をセットしていく。その魔道具は、会場の周りにも既にセット済みだった。
「えーっと……魔道具の方のボタンを押しながら……コントローラーの方で起動合図のスイッチパターンを入れて……あれ? 合ってるのかこれ……? 確認出来ないからな……うーん……」
魔道具の説明書を見ながら、辰己は背中のバッグに山ほど抱えていた仕掛けを確実に仕掛けていく。
それが終わり、背中がすっかり軽くなると、試合開始まで二時間ほどを切ってしまっていた。
流石にちらほらと、関係者が集まって最終準備を開始する。
とはいえ警備の人間は居ない。警備なんて必要ないからだろう。
客席の使われない場所はテープを張って立ち入り禁止と明確に表示されているので、改めて確認に来るような人間もいない様子だった。
辰己は客席の適当な場所に陣取ると、腰につけていたポーチなどの中身を確認しながら、今日、自分が戦うことになる決闘の場を眺める。
「……ま、戦うかどうかはわからないか……」
そもそもまともに戦ったら十中八九どころか、百パーセント辰己が負ける。そういう相手ばかりだった。
だから、辰己は戦わない。
戦わずして勝つ。
相手の足を引っ張って勝つ。
ルール上で勝てば、それでいい。
「……とはいえ」
荷物の整理を終えて――辰己は、決闘場の中央にやってきた一人の男に目をやった。
この世界の人間にしては老けて見え、見た目は四十半ばほど。
すっかり見慣れたアオザイに似た服を着た男は、その手に木造の剣を持っている。刃は成形されていないものの、当たれば相応の痛みを伴うであろう、鈍器。
木造の刃を、男は緩やかに振り回し、演舞のようなものをその場で行っていく。
その男こそ三人目の対戦相手、アルム=レッカネット・ファ。
辰己が『もしかしたら』戦う確率のある唯一の相手だった。
「あのおっさんだけには当たりたくないんだけど……どうなるかなぁ。戦ったら冗談抜きでぶっ殺されそうだからいやなんだよなぁ……」
こんなところで死にたくね、と思いつつ、辰己は演舞を眺める。
アルムの、遠目にはゆっくりと動く刃と同じく、ゆっくりと、ゆっくりと、時間が過ぎる。
だけど確実に、時は刻まれて。
試合の時は、やってくるのだった。
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