四章『チートクズ、はじめました』4‐4
クボ教授への仕込みが一段落した辰己が次に向かったのは、対戦相手の三人目だった。
アルム=レッカネット・ファ。
見た目は四十ほどの、この世界では『老いている』と言ってよい見た目。
野生動物を扱う肉屋――日本でいうならジビエ専門店といったところか――の店員をやっており、野生動物を狩って仕入れる仕事をしているとのことだったが……辰己は、その情報は嘘ではないかと勘繰っていた。
確証はない。
だがアルムという男は、あまりにも常人とは違う気配を漂わせていた。
そしてどこか、グディアント王とも似た雰囲気を漂わせている。
この男とは、可能な限り戦わない方がいい――そんなことを考えつつ、辰己は『試合前の挨拶』ということで握手だけして、ついでに魔法を仕掛けて帰ってきた。
アルムは辰己の魔法に気付くことはなく、静かな笑顔で辰己を見送ってくれた。
「……しかし、このクソみたいな魔法だけに頼るのは癪だな……」
アルムと別れ、次の目的地に向かいながら、辰己は重苦しいため息を吐く。
アルムは弱みと思えるものがすぐには見つからず、結局魔法を仕掛けるのが最善策だというところに落ち着いたのだ。
だが、辰己は、自身に宿った魔法が嫌いだった。
「ズルするならそれだけの労力を払うのがスジだと思うんだけどね……はぁ」
こんな魔法使いたくねー、と何度かため息を吐いているうちに、辰己は目的地に到着した。
それは、最近はもうすっかり見慣れた謎素材で出来た、一軒家。
対戦相手の二人目の家だった。
辰己は時計を見ると、まだ対戦相手が帰ってくる時間ではないのを確認する。
二人目の対戦相手は、ギグ=アル・ファ。
狩猟ギルド――国に入ってくると危険な野生動物を狩る、最もファンタジーの『冒険者』というものに近いイメージのギルドだ――に属している三十歳過ぎの戦士。
だが、この家に来た目的は、対戦相手のギグではない。
目的は、ギグの家族だった。辰己が占いの伝手で手に入れた情報に寄れば、五歳ほど年下の奥さんと、今年で六歳になる娘がいるという話だった。
かれらと親しくなっておく。それが、ギグに対する辰己の考えた『対策』だった。
「さて……笑顔をうさん臭くないようにしとかないと」
軽く顔をマッサージして、持っていた手鏡で表情をチェック。
人受けのよさそうな爽やかな笑顔が浮かんでいる自分の顔を見て、ゲロ吐くような気分になりながら、辰己は一軒家のドアをノックしたのだった。
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