四章『チートクズ、はじめました』
四章『チートクズ、はじめました』4‐1
辰己は、夢を見ていた。
正確には、夢じゃない。それは辰己が中学生の頃の記憶だ。
辰己の目の前には、一人の少年が立っていた。
それは辰己の同級生。
とても出来のいい、同級生。
人望も厚く、スポーツも勉強も出来て。
そして、勉強があまり出来ない辰己のことも気にかけてくれていた。
中学三年生。高校受験まで一年を切ったころ、辰己は模試で志望校の判定を上げられないでいた。
とはいえ、志望校を変えるつもりもその時はまだなかった。
とりあえずギリギリまでは頑張ろう、と。
自分が不出来な人間であるのは重々承知の上ではあったが、その上でぎりぎりまで頑張ろうという気持ちをそのころの辰己はまだ持っていた。
だが……その同級生は、辰己がその高校に行くのは無理だと思っていたのだろう。
早めに志望校を変えさせて対策を練った方がよほどいいと、わかっていたのだろう。
だから、同級生は辰己にテストで勝負を挑んできた。
一教科でも勝てたら辰己の勝ち。
けど、勝てなかったら、志望校は変えて他のところを目指して対策を練った方がいい。
そんな提案。
それを聞いた辰己の胸に浮かび上がってきた感情は――小さな怒りだった。
その提案は、その、自分の手の届かない高みから下される提案は、とても理不尽に思えて。
とても、傲慢なものに思えて。
負けたくないと思った。
そして――そんな高みに居るやつに勝つには、自分のところまで引きずり落とすしかないと思ったのだ。
……その後、辰己はその同級生にどうにか勝てた。
人生で初めて、他人の足を引っ張る工作に全力を尽くして。
そして、自分を気遣ってくれていた、優秀な同級生の冷ややかな侮蔑の視線を浴びながら、思ったのだ。
自分は悪人(クズ)だ。
真っ当な努力は上手く実らず、他人の足を引っ張った方が上手く行く。
優秀な人間がもっと多くを生み出せるはずだったのを、マイナスにして、自分の人生をわずかによくして。
そんな、全体を考えればマイナスにしかならない人間のクズだ。
だから――
『……死ね、クズ』
今まで友人だった同級生から、全てを否定するような鋭い言葉が放たれても、辰己はそれを受け入れるしかなかったのだった。
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