三章『ウソとマコトで荒稼ぎ』 3‐2


 新聞作りは一週間ほどをかけて順調に行われた。


 ノエの助力を得つつ内容を決め、ほぼほぼ任せきりでノエに一週間分の新聞のデザインを決めてもらい、ついでにノエの伝手で安く印刷所に刷ってもらった。

 ……ほぼほぼノエに頼りっぱなしである。


 他人にここまでの助力を得られたことのない辰己には、新鮮な体験だった。

 そうして新聞を完成させた辰己は、占いをしている店舗に新聞を置いてもらえないか交渉し、販売を始めたのだった。


 そして、その売れ行きはといえば――



「……笑いが止まらないってのはこのことだな」



 設置店舗の売り上げを回収しに来た辰己は、回収した金額を見てほくほく顔だった。

 絶対にハケないだろうと思っていた枚数を刷ったのだが、残っている新聞は僅か数枚。


 店内では多くの客が笑いながら『虚構新聞』を読んでくれていた。

 誰もかれも、楽しんでくれているのがわかる。ノエの提案でしっかりと新聞の上部に『ウソしか書いてありません!』と大きく注意書きをしていたのだが、それも効果があったのかもしれない。


 ついでに、ネタはグディアント王国から見た異世界・日本での知識が元になっている。

 看板にも『異世界日本の(ウソ)新聞』とでかでかと書いてあるので、宣伝としては十分効果があったようだ。



「支払いに手間がかからないのもよかったな」



 新聞を入れた箱の横にお金を入れる箱を置いておいて、値段を書いておくだけ。

 もしかしたら勝手にとられることもあるのでは、と思ったのだが、売り上げと無くなっている部数を照らし合わせても特にそういうことはなかった。


 流石善人ばかりの世界、元の世界じゃこうはいかないだろうと、辰己はますます元の世界と比較してこの世界の善良さを確認しつつ、明日の分の新聞を店の人に頼んでおく。


 そして店を出ると、ふと、男とすれ違った。

 男はちらりと辰己のことを視界に捉えて、それから少し慌てた様子で声をかけてくる。



「あの、少しいいですか」


「はい? どうかしましたか」


「いえ、異世界からいらっしゃった方ですよね? ここで新聞を売っていると聞いたんですが、まだ残っていますか」


「ああ、それならまだありますよ。数枚ではありますけど。どうぞ、中で買っていってください。新聞の購入だけでもいいですけど、よかったら喫茶店の方も利用していってください」



 営業スマイルを向けて辰己が言うと、男は軽く会釈して店の中に入って行った。

 それを見送ってから、辰己も次の店の回収に向かおうと思ったのだが……さっきの男の顔が頭から離れず、バス停へ向かう足取りは鈍かった。



「……うーん……どっかで見たことある顔な気が……占いに来た客にはいなかったはずだけど」



 首をかしげる辰己だったが、出来の悪い頭から答えは出てこない。



 ……男の正体が、ギルドを作る時に面接をした相手だというのを思い出すのは、ノエと合流して家に帰る途中のことだった。

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