間章
ノエの日記 1
最初は、普通の人だと思った。
異世界というのがどんなところかは、正直なところ想像がつかなかった。
魔法がまったくない世界。魔道具……とも違う、機械というものが支配する世界。
そして、競争の絶えない世界。……争いの絶えない、話に聞くだけで悲しい世界。
『交換留学』のためにやってくる人は、あちらの世界では非常に平和な場所からくると聞いては居たけれど、一体どんな人柄なのか、想像もつかなかったから。
だから、最初に挨拶をした時は、普通の人だな、と感じた。
交換留学生の、タツミ・アシヤくん。
タツミくんは、普通に礼儀正しくて、普通に大人しそうな男の子だった。
しいて言うなら、なんだか研究者っぽい気質をもっているのかな、とは思った。翻訳魔法の調子を確かめていた時なんか、特に。
ただそれ以上に特筆すべきところはなくて、特になにか問題を起こしそうにも見えなかった。街の中を見ている時、みんなから歓迎されている時、妙に戸惑って、そしてどこか不可解なものを見るような目をしていたのは気になったけれど……
彼にとってはこちらが異世界で、いろんなものが珍しいのだろうと、あまり気に留めなかった。
……思えば、少し私はそのあたり、ちゃんと気を遣っていられなかったのかな、と思う。
異世界に来ている彼の精神的な負担の程を、計りかねていたのかもしれない。
そんな私の気遣い不足が原因かは明らかではないけれど、タツミくんは王様に対して、ちょっと引くくらいに挑戦的な、いっそ無礼と言ってしまっていいような対応をしていた。
私はなにも言えなかった。
だって、王様相手に無礼を働いているのだ。そんなこと前代未聞で、開いた口がふさがらなかったし、そんな態度をとって王様が怒ったりしたらどうすればいいんだろうと冷や汗が止まらなかった。
もちろん、王様が悪いように計らうとは思えなかったけれど。
そんな私の反応に構わず、タツミくんは上機嫌に王様と交渉をしていた。
今日一番の、楽しそうな顔。
その横顔は、とてもエネルギーに満ちていた。
たまに王様にも感じられることがあるエネルギーに、満ちていた。
挑戦的で。どこか、挑発的で。
そんなタツミくんの横顔を、私は不思議な気持ちで見つめてしまっていた。
この気持ちを、なんと言えばいいのかわからない。あの満ち満ちたエネルギーの正体もなにもかも、私は理解していないから。
……それをこれから、彼は私に見せてくれるんだろうか。
期待したい。これから始まる、半年間に。
異世界の人たちのことを、知るために。
まぁ……それはとにかく。
一度タツミくんには、お説教しないといけないかな……?
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