2020文字のラブコメ

半社会人

2020文字のラブコメ


ボクの名前は世名真よなまこと

一応はこの小説の主人公なんだけど、タイトルからもわかる通り

字数に余裕がないので、人生駆け足になることを約束されている。

キミには読みづらくて本当に迷惑をかけると思う。

ごめんね。

でも、この小説で、少しでもキミにボクのことを知って欲しいんだ。


閑話休題。


ええと、まずは生まれなきゃね。


――


1999年7月。

「おぎゃー」

産声をあげたボクを優しく抱く助産師。

その傍らで父親らしき人も見守っている。

母親らしき人の力を出し切った息遣いも聞こえてくる。


病院で1週間過ごした後、自宅に移ったんだ。

1歳、2歳と年齢を重ね、言葉を覚え、自分で歩く。

大人になったら人間基本衰えはしても成長しないからね。

ここらで思う存分育っておかないと。

初めは内も外もなかったボクだけど、発達心理学に従って、家族以外に人見知りするようになっていく。


ちょうどその頃に幼稚園に通いだしたんだ。

お絵かきにお歌。色んな遊びを覚えていく。

そこで精神的に成長したり、あるいは逆に退化したりするわけだよね。


まあボクは平々凡々な幼児だったから、それなりに成長し、それなりに友達ができていった。

そんな小さな学び舎で過ごした後は、いよいよ小学校へ入学だ。


1年生から3年生くらいまでは、一部の例外はいても、基本素直な子ども。

素直にポケモ〇を集めている年齢だ。

4年生くらいになると、でも、事情が変わってくる。

ポケモ〇でも努力値を気にするようになってくる。


残念ながら、大多数の人は、そこでひねくれた性格を持ってしまうんだよね。

平々凡々なボクは当然適度にひねくれるけど、大事には至らなかった。


5年6年と順調に小学生を駆け上がると、いよいよ中学生だ。

思春期へ突入。


――


大体この頃から、まあ明確に男女の差を意識し始め、周りと自分を比べて劣等感を抱いたり、逆に優越感を覚えたりする。


ボクはボクでやはり平々凡々なので、それなりに劣等感を覚え、優越感は覚えることはあまりなかった。

黒歴史というほどではないけど、全部を開示できるかと言われたら怪しい。


なので、思い切って端折ることにする。


――


高校一年生の時、ボクは彼女と出会った。

ある朝。

家を出て、通学路をのんびりと歩いてた時のこと。


女の子が天から降りてきたんだ。

アニメのOPでよく見る光景だよね。

優しい髪色で、透き通るような肌をした美少女は、

ボクに緋色恋ひいろれんと名乗った。


人が空から落ちてくるのはどう考えても異常で大事件だけど、どこに通報すればいいのか分からないので、ドギマギするボク。


緋色恋はそんなボクを見て

「……邪魔」

「え、え?」

「あたしは学校に行く途中なの。どいて」


空から落ちながら学校に行くとは、中々エクストリームな通学だ。

今日は落下地点を間違えたのだろうか。

ちなみにボクはどこかの映画の主人公みたいに彼女を華麗にキャッチできたりはしていないので、緋色恋は思いっきり地面に激突したわけだが特に何ともなさそうだ。

パタパタとスカートについた汚れを手ではたきながら言う。


「学校って……」

「じゃ、じゃあね」

あっけにとられているボクを後ろに、彼女はぐんぐん歩きだした。

「……ボクもいかなきゃ」


やがて、ボクの通う高校の、転校生として紹介された彼女は、孤高の雰囲気をまといながらも、男女共に好かれることになる。

容姿端麗で、体育の時間に発輝した実力から分かるように、運動神経もいい。

勉学にも長け、自称進学校がいいところの高校で、唯一東大を狙えるレベル。


平凡という字を3Dで表現したようなボクと、非凡な彼女との間には高い壁があり、

仲を深めることなどないはずだった。


それが、授業のグループワークや、体育会や、文化祭。

数々の学校行事で、ことあるごとにペアになり、協力せざるを得なくなった。

そしてそこで、彼女の様々な一面を知る。

人間は複雑怪奇だ。

キャラ付けなんて言葉があるけど、人間実際には複数のキャラクターを自覚・無自覚問わず使い分けている。

小説みたいに分かりやすい人だけじゃない。

ボクは学校にいる時の彼女や、たまたま同じになった学習塾での彼女や、休日に外を出歩いている時の彼女や、その他、記述できないほどたくさんの彼女を知った。

冷静に見えて、意外と忘れっぽかったり、ドジだったり。

万華鏡のように色々な面を持つ女の子。

ちなみに初対面の時、彼女が空から降ってきたのは、通学路を大まかにショートカットしようとして道路を横切ったところ、勢いあまって飛び出したためだったことが判明した。



やがて高校2年生の夏。


「好きだ……ボクと付き合ってください」

「……うん」


ボクは緋色恋と付き合うことになった。


――


そして、2020年の夏。


うだるような暑さが人類に牙を向き、ボクらは降参しかけている。

そしてボクは、この小説をキミに書き続ける。

あの事故のせいで、キミはまだ、このくらいの文章しか読めないかもしれない。

過去も思い出せないかもしれない。


それでもキミにささげたいんだ。

2020文字のラブコメを。

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