死神vs流星・白夜【Third・Stage】
幾度となく重ねた戦線にて、魔法の使用はたった3度。
それでも尚無敗。そして、常に後手。
その死神が、自ら先手を取る。
相手の先手に追い付くのでもなく、躱して掛かるのでもなく、自ら先んじて出る。
対峙するアルタイルとベガは、それこそ瞬殺される可能性さえ考慮しながら構え、死神の繰り出す一手を待つ。
2人を含め、戦いを見守るすべてのプレイヤーが、死神をNPCとして見ておらず、NPCであるということを忘却さえしていた。
1歩、死神が踏み出す。
たかが1歩。されど1歩。
踏み出されただけで感じられるプレッシャー。
後れを取るまいと、恐れてなるものかと、退くまいとして、2人は辛うじて半歩踏み出す。
その、辛うじて繰り出された半歩を合図に、死神はより強く自らの跫音を響かせて、2人に肉薄した。
装甲各部位より蒸気を放ちながら走る姿は、さながら尾を引いて
目の錯覚のせいで蒸気と死神の残像とが重なり、漆黒の蒸気を放ちながら走っているように見える。
漆黒の彗星に向かって、眩い青で輝く星剣を携えたアルタイルが迎え撃つ。
【OOOOooooaaaaAAAAAAAA――!!!】
先程までの流暢な言動はどこへやら。
理性を失った獣の如き咆哮を轟かせ、深紅をまとった大剣を振るい、生まれる風圧で床を抉りながら突進してくる死神の姿は、もはや狂戦士のよう。
今の今まで理性のあった者が、それを捨てて迫ってくる恐怖は、体験してみても表現できる語彙が生まれない。
「“
流星の速度で繰り出される抜刀を連続で繰り出すのだが、刹那の一瞬のうちにすべて凝縮。
結果、凝縮された斬撃が一束にまとまった真白の閃光と化して、肉薄してきた死神を呑み込む、先程とは真逆の展開に発展する。
が、死神は横に避けることもなく閃光の中を突き進んで、アルタイルへと大剣を振り下ろす。
抜刀直後で甘くなった防御を突破し、アルタイルの体に斬撃を入れた。
「
下がるアルタイルの肩を足蹴に、追撃しようと迫る死神をベガが迎え撃つ。
背後には、数えるのも億劫になって無限と表現したくなるほど膨大な数にまで分散した黎剣が、冠する白夜の輝きを放って、彼女の後背で後光の如く光っていた。
「“
厖大な数の黎剣が次々と死神に当たって炸裂。
ベガに斬りかかろうとした死神は相殺しながら後退していくも、大剣を振り回しても数に圧倒されてすべて迎撃することは間に合わず、炸裂し、爆ぜる真白に呑み込まれた。
さらに追撃の黎剣が降り注ぎ、爆ぜて、真白の柱となって天上を衝く。
ここで「やったか」など言おうものなら完全なるフラグだったが、そんなものは必要ない。
そんなフラグなどなくともわかる。
あの死神が、この程度でやられるわけがない。
2人はもちろん、誰もが思っていた通り。期待を裏切ることなく、死神は立っていた。
確認すればHPは確かに減っているのだが、本当かどうか疑わしく思えるほど、焦土の上で堂々と立ち尽くし、赤い眼光を真っ直ぐ2人に向けていた。
「
「正直に言って、あの強さで理性を失っているとは考えたくない」
「天――」
本名で呼んでしまったことに気付いたのもあるが、言葉を詰まらせたのは別の理由。
背後のアルタイルの体に、先程とは別の傷が付いていたからである。
反撃の隙などなかったはず。与えなかったはず。ましてや距離から言って届くはずもなく、届くような攻撃があったとしても、繰り出す暇などなかったはずだ。
現に攻撃の軌道も見えず、捉えられなかった。
一体いつ、どのタイミングで――そこまで考えて、結論に至る。
黎剣を弾くためだけに繰り出していたと思っていた剣撃が、そのまま遠距離攻撃であり、反撃だったのだ。
まったくもって、末恐ろしい。
焦土に立ち尽くす死神が、いるはずのない本物に見えてきたし、もはや本物ではないのかとさえ思えてきた。
焼け焦げた床を歩く死神の足音が、やけに馬鹿でかく聞こえて仕方ない。
「大丈夫だ」
「でも――」
「迷っている時間は、ない」
こうしている間にも、死神の魔法によってHPは刻一刻と削られている。
微々たる量も蓄積すれば面倒だ。何より時間制限がない以上、迷っている時間も躊躇している時間もない。
仮にも死に抗うと言うのならば、戦うしかないのだ。
「勝つぞ」
「……うん」
1歩深く踏み込んで、前傾姿勢に。
そのままさらに踏み込んで、勢いよく直進。ベガの真横で停止して、突進の余韻でついた勢いで大剣を振り下ろす。
間に入ったアルタイルの抜刀が受け、ベガは後退しながら黎剣を分散して放つ。
が、アルタイルがいるため爆散させることが出来ず、ただでさえ硬い上、防御力が上がった死神相手に、攻撃力が下がった現状で与えられるダメージは微々たるもの。
後退させるだけの威力もなく、死神は繰り出される横やりを無視して大剣を振るう。
剣を振る速度が売りの星剣だが、抜刀にのみ限られた話である。
死神の剣撃に追い付くことは出来るものの、速度を伴わない剣撃では大剣の一撃を受け止めるには軽過ぎる。
幾度となく繰り出された剣撃を受け、隙を突いて突き技を当てることは出来たが、決着まで着けることは出来ず、むしろ小さい傷しか付けられなくて、返される剣撃は重く、傷は深い。
斬られた拍子に後退し、入れ替わるように飛び込んだ黎剣が爆ぜた際の爆風に巻き込まれる形で離脱することが出来たが、ギリギリもギリギリの赤ゲージだ。すぐに
「“
再び輝く黎剣が、厖大な数にまで増えて死神を襲う。
先程と同じく大剣で払いながら下がると思いきや、大剣で払ったまではいいとして、黎剣の1つを素手で捕まえると、すぐさま投げつけて他の黎剣とぶつけ、爆散。
連鎖的に爆発し、すべて死神に届く前に消えてしまった。
「嘘、でしょう……?」
MPの3分の1を消費して放つ、1人だけで放てる最後の切り札がこうもあっさりと打ち破られては、出てくる言葉はこの程度が限界だろう。
破られ方としても大技に相殺されるとか、最悪でも死神の技に完全に封殺されると思っていたのに、自爆するよう誘われてまんまと誘爆させられて終わり、だなんて呆気無さ過ぎて、それ以上の言葉など出てくるはずもなかったし、考える余裕などなかった。
「ベガ!」
「――!」
アルタイルの声で我に返り、反射的に振り下ろされた大剣を黎剣で受けた。
が、剣撃の軽さに違和感を覚えた直後、漆黒の鋼をまとった拳に腹を抉られ、高々と殴り飛ばされる。
凄まじい速度で天地が返り、焼けるような激痛が腹の真ん中から走って、声どころか息も出来ない。反撃も反応も出来るはずなく、地面に頭を叩きつけるより強烈な死神のラリアットを、まともに喰らってしまった。
地面に落ちるより前に駆けつけたアルタイルが受け止め、2人まとめて後方に転がっていく。
HPが尽きたベガが完全にログアウトするより先に天使の羽の輝きで以て照らし、蘇生。体力の半分まで回復させて、すぐに全回復出来るよう
「アルタイル……」
「間に合ってよかった」
「……ごめん、不覚を取った」
「あれを相手に不覚を取らない方が難しいから、気にしなくていいよ」
それに、ささやかながら仕返しも出来た。
〖死神……〗
胸に刻まれた十字傷。
噴き出るような血液こそないが、HPは確かに削られている。
ベガを受け止めるため、飛び込んできた際にやられたようだ。
流星の速度で抜刀を繰り出せる星剣だからこそ出来た芸当と言えよう。さしずめ、先程ベガの攻撃に応じる最中繰り出した攻撃の仕返しと言ったところか。
やってくれる。
が、仕返しは出来ても殺し返すことは出来ない――
敵ながら天晴れと称えよう。しかし、死返すまでは許さない。死ぬわけには、負けるわけにはいかないのだ。
【“
低く掲げた大剣が、深紅を帯びた漆黒をまとう。
「……ベガ、ここに」
「アルタイル?」
アルタイルは、星剣を抜く。
流星の速度で繰り出す抜刀が、真の持ち味であるにも関わらず。
勝負する気だ――と、ベガは察した。
「“ブルー・プラネット”」
刀身が水色を帯びた蒼白をまとう。
双方、3歩ほど歩いたかと思えば姿が消えて、次には双方の剣撃を衝突させていた。
深紅をまとった漆黒の斬撃と、水色を帯びた蒼白の斬撃とが、それぞれの軌道を残光として残しながら衝突。互いに一歩も引かず、むしろ押し除ける気合で剣を振るう。
斬られては斬り返し、斬り返しては斬られる。
弾ける血飛沫こそないものの、それを想起させるほどの壮絶な斬り合い。
「アルタイル!」
〖死神……〗
双方、後背に祈りを受けていることに気付いているのかいないのか。
徐々に剣速が加速を始める。
片や、死という恐怖を超克するために。
片や、死ぬことを許されない身であるがために。
各々の思いが剣へと伝わり、速度、重さを生み出す。
結果、祈りの格差と言うべきか。人間と人間ならざる、人間を模した知能だからこその差と言うべきか。人の――ましてや想い人の祈りを受けたアルタイルが、一歩先を行った。
「“シューティング・スター・ソニック”――!!!」
蒼白の残光を軌道に残し、呼吸を忘れたアルタイルの連続剣技が死神を斬る。
深紅と漆黒をも蒼白で塗り潰し、装甲の上から斬り刻む。
減っていく死神のHP。それより遅いものの、アルタイルのHPも死神の魔法の効力を受けて減っていく。
だが、合計56連続にも及んだ斬撃でも足りず、死神が反撃を試みようと大剣を振り被った時、上空から降って来た黎剣に手首を刺され、大剣を落とされてしまう。
「アルタイル!」
周囲にはすでに100の黎剣。
逃れられない。
「“スター”!!!」
「“バースト”!!!」
「「“ストリーム”!!!」」
星剣抜刀――して、両断。
直後、100の黎剣が降り注いで全身を斬り刻み、真白に爆ぜる。
舞い上がっていた戦塵が晴れ、光が消える。
画面越しに見守っていたプレイヤーらは、息も絶え絶えながら立っている2人と、彼らの間で膝を付き、天上を仰ぐ状態で黒煙を登らせている死神の姿を見た。
決着は着いたのか。
着いていないのか。
誰もが断言こそ出来なかったが、ついに死神が倒れるのではと期待さえ抱いていた。
故に鳴り響いた鐘の音は、プレイヤーらにとって希望を打ち砕く音であり、扉の奥の女神にしか、希望として捉えていなかった。
≪女神様≫
〖……えぇ、間に合ってよかった〗
タイミングとしては早過ぎると思っていたけれど、結果的には最高のタイミング。
つまりはプレイヤーらにとっては最悪のタイミングで、創造主からの反感も大いに買うことになるだろうが、そんなことはどうでもいい。
死神が勝ちさえすれば、それでいい。
そもそも不服に思っていたのだ。
自分達には許されず、彼らには許される。蘇生というシステムを。
先程アルタイルがベガに対して使った天使の羽然り、蘇生のアイテムを使えば、仮初とはいえ、死神に殺されていようとも蘇ることが出来る。
この世界のルールに従い、一定時間内での使用に限られるが、何であれ蘇生出来てしまえるという事自体が、女神の不満そのものであった。
だから思うのは当然だ。
不公平だと。
一撃必殺も別に死神の専売特許と言う訳でも無し、ただ強過ぎるというだけで、死神は特別優遇された能力はないのだから、向こうは幾度も蘇生してくるのに、こちらは1度でもやられたら終わり、だなんて不公平ではないか。
故に、作った。
厖大なHPを割り振られているからこそ発現可能に至った、レイドイベント専用スキル。
HPが一定値を下回ったときプレイヤーの蘇生と同じ仕組みで発現する、女神による蘇生――いや、再臨スキル。
〖“
16枚の翼を広げ、自分の手を握り締めるように祈る。
次の瞬間には、女神の姿は厚い扉を超え、死神と2人のいる戦場の上に在り、白と黒の羽を翼を羽ばたかせる度に散らして、降らせていた。
プレイヤーだけでなく、世界中の運営の人間までもが彼女の唐突の降臨に驚き、言葉を失う。
今まで一度も見たことのない女神の姿を、ただ息を呑んで仰ぐだけである。
〖私の死神。私の守護者。汝の功績を称えましょう。女神より、祝福を――〗
舞い散る白と黒の羽が、
直後に死神の赤い眼光が、鋭く光った。
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