自分の為に寿司を握る者に店は持てない

厨房で調理するバルド。

その姿はまるで彫像を思わせる。


(凄いな・・・)


三崎は感銘を覚えた。

何故ならばこの状況で慌てていない、 本来ならばすぐさまにでも

卵焼きを焼きたいのだろう、 時間制限の有るこの状況ならば尚更である。

それなのにも関わらずバルドの姿には焦りは見えない。


(この人は一体どんな人生を歩んで来たんだろうか・・・)


三崎はその疑問をバルドにぶつけた。


「バルド、 君はスシブレーダーになる前は一体何を?」

「執事をしていました、 元々孤児でレーア様に拾われて教育を受けました」

「なるほど・・・料理もその時に?」

「えぇ」

「凄い堂に入ってますね・・・師匠が良かったんですかね?」

「いえ、 独学ですね、 本を読んだりとかで・・・」

「独学で!?」

「えぇ・・・」

「独学でこれは凄い・・・」


卵焼きを巻き始めるバルド。

そして食べる。


「結構食べてますよね」

「えぇ・・・今日で試作は12回位ですかね・・・」


もぐもぐと卵焼きを咀嚼するバルド。


「この味で決まりですね」

「そんなにいい味なのですか?」

「えぇ」

「少し頂いても?」

「どうぞ」


もぐもぐと三崎は食べた。

旨い、 旨いのは旨いが飛びぬけて旨いとはならない。

出汁の配分が違う様だが・・・


「何故、 この味で決まりなのですか? 理由を聞きたい」

「この味が僕が求める味だからです」

「何故?」

「レーア様の好みの味だからです」

「!!」


三崎はハッとした。


「・・・つまり自分では無い誰かの為のスシブレード・・・だと?」

「僕が自分の事だけ考えていたら戦いなんてしませんよ」

「・・・・・」


自分の為じゃなく、 誰かの為に戦う。


「これも絆・・・か」


三崎は呟いた、 そして悟った。

自分はスシブレードしか見て居なかった事に。

何と愚かだったのだろうか、 スシブレードと絆を結びたい? 好きになりたい?

他者を好きになれず絆を結べない者がスシブレードと絆を結べる訳が無い!!

誰かの為に戦う者こそが真の強者なのだと!!

三崎はハッキリ自覚した。


「羨ましいよ・・・本当に・・・」


三崎は呟いた。


「何か言った?」

「いや・・・何でもない・・・」


三崎は人との絆を紡げるだろうか?

早々簡単にはいかないだろう、 だが・・・


「よし!! 僕もやろう!!」


三崎は準備を始めた。

自分に出来る事を一生懸命やらない者に未来が来るはずも無い!!

三崎は覚悟を決めた!! 自分に出来る事を精一杯やる事を彼は決意したのだった!!


「さて・・・次は酢飯だ・・・」


バルドも調理を再開したのだった!!

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